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僕らはみんな「社会人」 [経済・政治・国際]

葉桜から芽吹く新緑が眩しい頃合いに、季節が移ってきました。
4月も半ば。
進級・進学・就職・転勤などにともなう新生活も一息という方も大勢おられるかと思います。

ところで、3月で学校を卒業し、この4月から何らかの事業体に就職して仕事を始めた新人職員等々に対して「新社会人」という呼称を用いることも、毎年この時期には目立ちます。

ツイッターなどでは[ #新社会人に送るメッセージ ][ #新社会人へのアドバイス ]といったハッシュタグが賑わいを見せたりするのも例年の慣行でしょう。

「新」に限らず、すでに学生時代を終えて職業人となって久しい人が、自己の身分を「社会人」とイントロデュースすることも、当然に珍しいことではありません。


しかし……、しかしですね。
よくよく見直してみると、この【社会人】という語、いささか引っかかります。

ぃやまぁ、むろん、言わんとすることは伝わりやすいです。
便宜上、こういう表現で言語コミュニケーションがとられている以上、ソコにコミットすることは妥当でしょう。

みんなが使っている言い回しというのは、要は「伝わりやすい」便利な国語的リソースなのですから。

ただ、そうは言ってもこの用語法、本当にモンダイはないのでしょうか。
うっかり無批判に使い続けることで、何か捨象されてしまうものはないでしょうか。

迂闊に用いることで、知らず知らず支配体制に組み込まれてしまうことを是認してしまうような、いわば呪いの言葉ではないのかどうかを、不断に検証するよう努めることは重要です。


あらためてよく考えてみましょう。

修学を終えて会社などに入った人を「新社会人」と呼ぶというのは、つまりは会社などビジネスの場こそが社会だ! という考えに則っています。

人間界の政治や経済を司る権力中枢に連なる領域がもっぱら《社会》なのであって、それに属さない周縁の領域は社会ではないのだという価値規準だと言い換えてもよいでしょう。

ありていに言って、大人の、特に男性がリソースを割り当てられるものとして秩序づけられ成立している、この社会の《ホモソーシャル構造》に準拠した世界観、そういう体制をふまえた用語法が、この「社会人」なわけです。

ということは、この「社会人」を不用意に使用し続けること、これは例えば「新社会人」が3月までいた学校や、あるいは地域社会や家庭などが、「社会」の名に値しない、取るに足らないものに過ぎないという意味付けに暗黙のうちに加担し、支配体制の強化再生産に与してしまうことにもつながりかねません。


もちろん、これは不当です。

社会学的には、人と人とが出会い、そのコミュニケーションをもって成り立っている場はすべて「社会」です。

すなわち、学校も地域も家庭も、その他あらゆる人と人とが何らかのやり取りをおこない相互作用を起こしている現場が、全~部コミコミで【社会】なのです。

であるからして、なんのことはない。

就職以前の学校での友人関係も親子関係もバイト先での人間関係も、あまねくまとめてすべからく「社会人としての経験」なのではありませんか!

「#新社会人へのアドバイス」も何も、すでに積年の経験値が、誰もに社会人としてあるのです。

そう、僕らはみんな「社会人」。
人間は生まれた瞬間から誰もが「社会人」なのです。

ですから、しいて言えば「新社会人」とは、生まれたばかりの赤ちゃん・新生児のことということになるでしょうか。


……そんなわけなので、この「社会人」なる語、深く考えずに安易に使うのは、ある意味ポリティカル・コレクトネスを欠くことになってしまいます。

かといって使用を完全に封印してしまうと、これまた不便なのが悩ましい;

ということで、いわゆる学校を出て働き始めている人を便宜上「社会人」という言葉を用いて呼ぶときには、上記のようなことを頭の隅にでも留めておくとよいのではないでしょうか。


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