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ウルトラマンがプリキュアとカブる令和 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

2019年度のプリキュアシリーズ作品スター☆トゥインクル プリキュアも、とうとう先月で最終回を迎えました。

1年前、放送開始にともなって書きました以下の記事。

 → プリキュアが宇宙へ進出する意味を探ると顕になる多様性の真髄
https://stream-tomorine3908.blog.so-net.ne.jp/2019-02-02_StarPrecure


この中で述べた羽衣ララの性別については、その後の展開において、どうやらサマーン星の性別のシステムについては、わりと地球と近似している様が描かれたので、「性別不詳」のセンはいちおう消えました。

ただ入れ替わるように、追加戦士・キュアコスモの変身者として登場したレインボー星人のユニ。

こちらはどうもいわゆる「雌雄同体」もしくは「単性生殖」の種族であるようなことが示唆されていたので、アニメ表現上は従来のプリキュアシリーズと比べて特段の新奇なビジュアルというわけではないものの、ある意味での「男の娘プリキュア」である可能性は担保され、そんな状況自体が否定されずに描かれていたとも言えます。

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※当記事中の画像は放送画面や公式のwebサイト等よりキャプチャ


やはり「多様性」の描写が心がけられると謳われていた『スター☆トゥインクル プリキュア』だけに、そうしたジェンダー・セクシュアリティまわりの取り扱いにもソツはなかったということになるでしょう。

そして、それ以外の面でも各種の多様性と共生のコンセプトは丁寧に織り込まれ、人種・民族の問題やルッキズム、その他さまざまな軸線での価値観の対立など、視聴者にさりげなく身近な諸問題について見直すきっかけを提供する形になっていたりもしました。


 → スタートゥインクルプリキュア 39話 感想 全力考察
   えれなはテンジョウと分かり合えるのか/金色の昼下がり
https://www.konjikiblog.com/entry/star-precure-39-2

 → 「スター☆トゥインクルプリキュア」が“最高の子ども向けアニメ”である理由
   サラリーマン、プリキュアを語る:ねとらぼエンタ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2001/23/news019.html

 → スター☆トゥインクルプリキュアWEB記事リンク集/プリキュアの数字ブログ
http://prehyou2015.hatenablog.com/entry/stapuriweblink


そのあたりは、すでに他所でも詳しく述べられているので、上記のリンク先記事などに任せたいと思います。

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他にも、宇宙を舞台としたことのジェンダー撹乱性についても期待以上のものを見せてくれました。

☆女の子どうしの親密な関係性
☆主人公らが自発的自律的に自ら主体性を持って行動
☆自分たちの日常を守ることが直接の行動原理
☆最終的には敵陣営のありようさえ変えていく

…など、プリキュアシリーズの基本はもちろん押さえつつ、「これ『機動戦士ガンダム』で見た!」「まるで『宇宙戦艦ヤマト』!!」のような絵面が登場したり、往年のSF特撮作品のオマージュと思える設定がさりげなく入っていることが物語の根幹と巧みにつながっているなど、宇宙が舞台ならではの描写・作劇は、女児向けとされる番組の枠組みの中での作品のつくりとして、ある種の新境地を拓いたと言えます。

いずれにしても、年年歳歳プリキュアシリーズの進化は止まらないと評価してよいでしょう。

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さて、そんな『スター☆トゥインクル プリキュア』、多様性の広がる宇宙を直接に物語に織り込みながら、さまざまな存在が異なる価値観を認め合いながら相互受容・共生するための、ひとつのモデルケースを描いたことは、まさにこの時代に求められるテーマに真摯に取り組んだと言えるのですが、そのテーマ、じつは同じオンエア期間中に子ども向け番組として制作される別の作品で、甚だしくカブっていたりもしました。

ここで標題の件につながってくるわけですが、その作品こそが、2019年度のウルトラマンシリーズの新作ウルトラマン タイガだったわけです。

『ウルトラマンタイガ』は、ウルトラマンタロウの息子という設定のタイガと、その仲間のタイタス、フーマの3ウルトラマンが、平常時は主人公・工藤ヒロユキの中に宿り、イザというときは状況に応じてヒロユキがそのいずれかと組んで巨大化・変身して敵と戦うという基本設定でした。

そんな工藤ヒロユキが所属するのは、後述のように地球に密かに暮らすという異星人が関係する案件を専門に扱う民間警備会社。
個性的な登場人物が仲間として配置され、ともにさまざまな事件に向き合っていくことになります。

今どきのウルトラマン作品としては、まずはソツなく適切に制作されており、女性が活躍しづらいというシリーズの構造的ハンディキャップも、キャラ配置や作劇を通して補う工夫は随所にみられました。

プリキュアシリーズが興隆してきたこの時代、ウルトラマンをはじめとした男児向けとされる作品群にあっても、プリキュアとの相互作用のうちに、いろいろと進化が見られる点については、すでに数年前にも(以下やその前後の記事にて)取りまとめたとおりです。

 → プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難
   [4:ウルトラマンの斜陽とギンガの挑戦]
https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2014-05-04_PC4-UltraGinga


『タイガ』もまた、そこから続いてきた先の最前線として、まさに令和初のウルトラマンの名に相応しいものを見せてくれたのだと言えましょう。

そんな『ウルトラマンタイガ』。
7月の放送開始を控えた事前情報の時点で、すでにそこはかとなく『スター☆トゥインクル プリキュア』感は漂っていたものです。
そう、この年はプリキュアが「宇宙」をモチーフとしてしまったがゆえに、ウルトラマンがプリキュアとカブる! という事象がいみじくも発生することになったのです。

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この「地球には宇宙人が密かに移住してきている。……そんな社会の中で、主人公……は、宇宙人が絡む事件を……」というのは、実際のところ『スター☆トゥインクル プリキュア』でも共通した設定です。

実際に番組の放送がスタートした時点でも、オープニング主題歌の冒頭に入るナレーション「この地球に宇宙人が密かに暮らしていることは、あまり知られていない。これはそんな星で出会った若者たちの、奇跡の物語である。」というのが、やはり『スター☆トゥインクル プリキュア』に対して語られても、まったくそのまま当てはまるものでした。

そのオープニング主題歌というのも、ほとんどプリキュアの主題歌にも使えそうな内容でしたしね。
(というか『タイガ』の前年の『ルーブ』の主題歌の歌詞が、ほとんど「プリキュアソング頻出ワードTOP20」だけで出来上がっていたりもしました
参考→ https://twitter.com/tomorine3908tw/status/1052933168712404992

 


加えて、放送後半から採用されたエンディング主題歌・スフィアの「Sign」なら、もっとズバリ『スター☆トゥインクル プリキュア』の挿入歌であってもオカシクなかったというのも、いろいろと象徴的だったのではないでしょうか
(逆パターンでプリキュア側の劇場版主題歌がなにやらタイガの主題歌っぽかったりも)。
参考→ https://twitter.com/tomorine3908tw/status/1188835173531443204

 


あと、第1話で主人公が初めて変身するに至るシークエンスが、やはりプリキュアシリーズと特段の本質的な差異があるわけではないというのも、もはや今日では特筆事項ではありません
(『タイガ』の場合、特に昨年度の『HUGっと!プリキュア』第1話と相同性が高かったと言えるかもしれません
参考→ https://twitter.com/tomorine3908tw/status/1147336558208417792

 


そんな中で、とりわけ『スター☆トゥインクル プリキュア』と『ウルトラマンタイガ』の共同作業になってるなと痛感されたのは、地球に生きる「宇宙人」と地球の人々はどう向き合うのかという主題。
いわば《多様性》《共生》をめぐる諸問題の本丸とも言える案件についての作劇をめぐってのことでした。

『スター☆トゥインクル プリキュア』第40話「バレちゃった!? 2年3組の宇宙人☆」では、羽衣ララが他のプリキュア仲間とともに通っていた学校で、ついに地球人ではないことを級友たちに明かさざるを得なくなります。

異質な存在を多数派を基準として成り立っている社会にどう受け入れるか……。
現実世界では人種・民族、あるいは「障害者」、そして「LGBT」、直面するケースは多々ある課題です。
アニメの設定を生かして、その点に肉薄した物語は、まさしく子どもたちのニーズに答えるものでしょう。

プリキュアでは、幸いにも葛藤の末に級友たちは羽衣ララを同じ宇宙の地球に生きる同朋だと受容することになりますが、これは肯定的なモデルケースを示すという意義があったでしょう。

片や、共同作業のもう一方を担う『ウルトラマンタイガ』では、もう少しシビアな展開が描かれます。

裏で暗躍する闇のウルトラマン「トレギア」(の地球人体「霧崎」)による唆しともあいまって、地球の人々(というか舞台設定的にはズバリ「日本人」)の間には、やおら「宇宙人排斥運動」が沸き起こります。
最近の怪獣騒ぎや、その他の不可解犯罪の多発などは、全部が宇宙人が地球に来ているせいだ! と決めつけた排外主義の勃興だというわけです。

その様子は映像表現的には、もうほとんど現実の民族的差別主義者のヘイトスピーチ・ヘイトデモをそのまんま写実したもの。

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これはかなり踏み込んだ描写だったでしょう。
おそらくは、子どもたちがリアルなヘイト活動を目撃したときに「あっ、アレってウルトラマンタイガに出てきてたアカンやつや!」とピンとくるように、相当に周到に意図的に演出されたものだと推察できます。

特定の属性の相手を、その属性だけを根拠に犯罪予備軍扱いしたり不当に特権を得ているように看做すこと、それを否定的に描いておくというのは、やはり今日の日本社会に必要なメッセージなわけなので、ここにも今どきのウルトラマン作品の誠実さが読み取れるでしょう。

民族的なヘイト活動に対しては「絶対に許さん!」だと思われる人であっても、一方で同じ人が「トランスジェンダー女性の女性トイレ使用は認めたくない!!」と難色を示す事例が少なからず散見たりもするように、こうしたテーマは根深いだけに重要なものですから。

願わくは、こうした複数の「子ども番組」による連携した取り組み、いっしょに視聴している親世代もが、これらの作品が「宇宙人」に仮託して何を訴えているのか、ソコんところを今一度しっかり自省するのに活かしてほしいものです。


 


ともあれ2019年は、「宇宙」をモチーフに《多様性》《共生》というテーマでプリキュアとウルトラマンがカブったわけです。

女児向けとされる番組の枠組みの中での作品・プリキュアと、男児向けとされる番組の枠組みの中での作品・ウルトラマンが、奇しくも同じ主題に取り組むというのも、令和の時代らしいジェンダー撹乱性です。

そして、他のディテールも視野に入れれば、両者の共通項はさらに増えます。

こうした「子ども番組」の《男の子向け/女の子向け》という区分は、【番組】枠としては社会のさまざまなしくみとの折り合いもあるので、今しばらくは残存することになるでしょうが、その中の【作品】の内容としては、もはや因習的な大人の思い込みの中でしか意味がなくなっている。
そう断言しても、あながち過言ではない状況になりつつあると思われます。
時代は令和。もう2020年代なのです。

  

  
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---(2020/03/09)-------
かくして2020年も3月となり、プリキュアシリーズは新たに『ヒーリングっど プリキュア』が前月より始まっていて、そして同じ日曜の朝の戦隊シリーズの新番組としては、昨日より魔進戦隊キラメイジャーがスタートしました。

で、この『キラメイジャー』なのですが、これまたプリキュア的な要素が目白押しなのです。

戦隊のモチーフは(プリキュアや他のシリーズ作品もですが)毎年ごとに趣向を変えて斬新さが打ち出されることでマンネリを防いでいるわけですが、戦隊シリーズ前作は『騎士竜戦隊リュウソウジャー』ということで、「騎士」と「恐竜」がフィーチャーされた世界観でした。

それが今般の『魔進戦隊キラメイジャー』では「乗り物」と、そして「宝石」。
そう「宝石」です、「宝石」!

宝石的なものはプリキュアシリーズでもしばしば何らかの形でモチーフとして採用されていますし、昨今であれば同じ日曜の朝に『キラメイジャー』の放送時間の直後に他局でちょうど始まる(女の子向けの番組枠の)アイドルアニメのその名も『キラッとプリ☆チャン』が、今まさに「ジュエル・オーディション」のクライマックスを迎えているのと同じ、ジュエル、すなわち宝石なのです。

これは、いちおう「乗り物」という因習的なジェンダー観念では男の子らしいというイメージにそぐう保険もかけてありますが、ある意味、1年前に「宇宙」をモチーフに選んだ『スター☆トゥインクル プリキュア』のイントロダクションを読んで「なんか戦隊シリーズっぽい」という印象を抱かされたのと対を成す事態ではないでしょうか
(もちろんここ20年ほどは戦隊のモチーフが多岐にわたっており[魔法]や[天使]といった前例もすでにあり、仮面ライダーでも[魔法と指輪][フルーツとダンス]などの事例がありはしますが、今回の「宝石」はソコからさらに一歩踏み込んだ印象がします)

2月に劇場公開のリュウソウジャーとさらに先代の戦隊とのコラボ映画と同時上映となるキラメイジャーの「エピソードZERO」は、テレビで放送された第1話の前日譚なのですが、こちらも事前情報時点でリリースされた《あらすじ》などによると、

宝石の国のお姫様が、故国の危機を逃れて、王国に伝わる伝説の宝石・キラメイストーンとともに地球へやって来て、キラメイストーンのパートナーとなる伝説の戦士に相応しい、キラメンタルという、魅力やずば抜けた才能の源となる強い“輝ける精神”を持った人を探す

……というのがストーリーの大枠なようです。
はい、見てのとおり、然るべきタイミングで「これ来年のプリキュアのネタバレ情報」だと言われたりすれば、何のギモンも抱けずに信じてしまえる内容です。

そうしてキラメイジャーのレッドに変身するメイン主人公・熱田充瑠のキャラ、これが、事前情報から「エピソードZERO」、そしてテレビ本編の第1話までを見ても、「自分の好きなものには情熱を込めて没入しがちで、ともすれば同調圧力の空気を読まずに周りから浮いてしまいかねないことも厭わない、想像力豊かなソロ充」という、ほとんどまるっきり『スター☆トゥインクル プリキュア』のメイン主人公にしてピンクプリキュアのキュアスターに変身する星名ひかると重なっていたりもするのです。

主人公のメンタリティも、やはり今はもう男女差はない、という傾向がここでも現れていると言ってよいでしょう。

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さらには、そのキラメイジャー劇場版「エピソードZERO」のエンディングでは、なんとプリキュアも登場して、いっしょにダンスをするというコラボレーションもおこなわれました。

これにはさすがにワタシも、ずいぶんと思い切ったことを公式が始めたなと思いましたが、ただ従前よりワタシが主張してきたとおり、内容的な差がもはやなくなってきているとしたら、あとはマーケティングの問題なので、そこらあたりの変革もおこなわれていく、その序章だと考えると、この2020年初頭の出来事としては納得できるものです。

もうプリキュアも(仮面ライダーも)戦隊も、同じ日曜朝のヒーローものということでイイよね……という方向へ、制作の元締め・東映もスポンサーのバンダイも傾き始めているということかもしれませんね。


 


 


 

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