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オニシスター鬼頭はるか「戦隊ヒロイン」としての新機軸ぶりが鬼ヤバい [メディア・家族・教育等とジェンダー]

今年度のプリキュアシリーズ『デリシャスパーティ プリキュア』が、ここへ来てのさらなる新機軸が満載で、なかなか画期的だという話は先日まとめました。

 → デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-03-02_DpPr-Mary


さて一方、戦隊シリーズのほうは昨今どうなっているのでしょうか。

かつて指摘されていたような、チームヒーローにおける紅一点問題については、時代の進展とともにさまざまな工夫がおこなわれ、近年ではいちじるしく改革が進んでいると言ってよいでしょう。

昭和の昔にはありがちだった、立ち位置は「職場の花」的な扱い、もしくは「お色気担当」、場合によってはセクハラも受ける、あるいは男性主人公の恋愛相手という存在意義、そして主たる任務としてあてがわれるのはヒーローの物語からは一段後景にある補助・ケア労働で、あくまでも男性ホモソーシャル構造における周縁化された役割でしかない……、そういういかにもな描写はすでに影を潜めて久しいです。

女性メンバーがチームのリーダーである戦隊も複数の前例がありますし、存在役割が男性メンバーと対等な設定も積み重ねられてきました。

女性メンバーが2人の戦隊が登場して以降は、その2人の関係性の掘り下げ描写(ありていに言って「百合」)も定石となり、さしづめ《戦隊内「ふたりはプリキュア」》な様相を呈する展開さえ増えています。

女性メンバーを「戦隊ヒロイン」と呼ぶ習慣も便宜的にはまだ残っていなくはないですが、もはや近年ではそういう概念が妥当しないほど、女性メンバーは戦隊ヒーローの中で他の男性メンバーと同等に活躍し、キャラとしての独自性をチーム内で発揮し、その主体性を存分に体現しているわけです。

女性であるがゆえに、男性のための物語の中で都合良く処遇されている……といったのような批判が的を射ていた時代も、今は昔と言えるようになってきたわけです
(むろん「番組」としての周辺の環境には、例えば「戦隊ヒロイン女優」の水着グラビアを男性誌の表紙に掲載するような、ある種の旧習が未だに残っていなくもないですが)。

※[補助]業務としては通信士や後方支援任務などが「あるある」でしょう。[ケア]役割は負傷者の看護や「お茶汲み」など、あるいは男性主人公がメンタル面で落ち込んだときの叱咤激励などの「心のケア」も含んでよいでしょう。

※戦隊シリーズでは[レッド]が常にメインの立ち位置にはいますが、「リーダー」が誰かとなると戦隊によってまちまちで一概には言えません。昨今のアイドル用語を援用するなら、[レッド]は常に「センター」ですが「リーダー」とは限らない……わけです。

※字義的には「ヒロイン」とは単にヒーローの女性形の語ではありますが、現実としては物語の紅一点として上述したような「女性役割」を果たす登場人物という意味で用いられることが多く、各種のジェンダーバイアスが紐づいた言い回しでありましょう。

※その他、往年の紅一点描写と、そこからの変遷の様子については、以下の記事なども参考にしてください。

 → ウルトラQはウルトラマンよりも新しい!
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2016-07-03_QthanMan

 → [1:男の子プリキュアへの中間回答]女の子は誰でもプリキュアになれるのか?
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2017-09-21_everyonePrecure01

 → [3:戦隊ヒーローの先見と仮面ライダーの転身]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2014-05-03_PC3-rider_ranger


※また、いわゆる紅一点についての論議の起点としては、やはり往年の話題書である斎藤美奈子『紅一点論』が、今なお押さえておくべき基本であるでしょう。

 


で、そんな戦隊シリーズの今年度作品、それが『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』なのですが、その「紅一点」相当キャラ・「戦隊ヒロイン」にかかわる描写が、これまた非常に斬新で、その新機軸の満載ぶりからは、やはり時代がさらに一歩進んだ感がすこぶる強力に窺えます。

 → 「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」東映オフィシャルサイト
  https://www.toei.co.jp/tv/donbrothers/index.html

 → テレビ朝日「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」公式サイト
  https://www.tv-asahi.co.jp/donbro/


「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」での女性メンバーは、色はイエロー、そして「桃太郎」をモチーフにした戦隊の中で、メインのレッドが桃太郎な他は犬・猿・雉と並ぶ中での、なぜか鬼という属性。
名付けて「オニシスター」
(他が「ドン・モモタロウ」「イヌブラザー」「サルブラザー」「キジブラザー」)

なので、オニシスターは人数的にはまさしく紅一点で、女性2人体制の戦隊よりはジェンダー的に後退した設定だと言えなくもありません
(まぁ近年の戦隊はいろいろ変則的な構成も多く、男女比についても単純には語れないのですが…; ちなみに今般はそういうことなので、色がピンクであるキジブラザーは男性ということです。公式戦隊初の男性ピンク爆誕ですね)。

そして、そのオニシスターに変身するのが、その名も「鬼頭はるか」!!
すでに漫画家としてデビューもしている現役女子高校生、という設定です。

実際に制服姿での登場もある現役女子高生という設定は、男性視聴者ウケを狙った「萌え」優先のしつらえではないのか!?
という批判をしたくなる人も少なくはないでしょう。

あと、モチーフの「桃太郎」というのも、ある意味ジェンダー的には鬼門(←文字どおり…!?)なのは、上述のリンク先「桃子ちゃんの鬼退治」にあるとおりです。

しかぁし!!
そうした不安はまったくの杞憂。
蓋を開けてみると、ものすごい、想像の斜め上のキャラが飛び出してきました。

 BL220712_HeroineNew.JPG
 §画像はテレビ朝日公式サイトの画面をキャプチャしたもの

否、むしろこの「鬼頭はるか」、キャラとして突飛というよりは、逆に、いかにもそこらへんを歩いていそうな、まさしくどこにでもいそうな10代の女の子なのです。
要は、今どきの女子高校生キャラとして、むちゃくちゃリアル。
そのうえで、そんな女子高校生像が、ものすごく今風の「令和クォリティ」になっているのです。

なので、一歩引いて男性を立てるみたいな発想は微塵もない。
それどころか、男性メンバーの各種の言動に対して積極的に鋭いツッコミを入れる役回り。
あまつさえ、男性メンバーのちょっとした奇行に接しては、「ぅわっキモっ(気持ち悪い)!」と、心底イヤそうな表情を見せる。
そこには自分を「女の子らしくカワイク」見せなければ(以て男性陣から良く思われよう)というような囚われは皆無です。

したがって、男性メンバーからの恋愛対象という作劇上の役割も免除されていると見てよいでしょう。
逆に男性メンバー各々に対する関係性の構築(自体は物語の展開とともにいろいろ進んでいはするのですが)が単純にありきたりな恋愛感情に回収されることもなさそうです。

表情については他にも豊かで、さまざまなシチュエーションに対峙した際のリアクションとしての「変顔」のバリエーションも数多あります。
それらがいずれも一般的な通念に照らして「可愛い女の子」という範疇には収まらない、収まる必要はないという演出になっています。
果ては、そうした「可愛い女の子」っぽさを全面に出したキャラ付けの人物のゲスト登場回では、そのいかにもな「ブリっ子」ぶりに苛立ちを見せる一幕も。

しかしそれでいて、既存のジェンダー秩序の都合のいいところは上手いこと利用してやろうというちゃっかりした抜け目なさも持ち合わせています。
いつか「白馬の王子様」が迎えに来るようなことがあるなら、それはそれで美味しいかなと考えていたり、あるいは男性を喜ばせるという企図を達成するならば手焼きのクッキーを持っていくといいだろうと画策するなど。

一方「鬼頭はるか」は自己肯定感も高く描かれています。

自らの漫画家としての才能には確たる自信を持っていますし、謎の盗作疑惑に対しては、断固として不当なものと自認。
いかに汚名を返上して新作を世間に認めさせるか、今後のキャリアデザインも構想は描いているようです。

盗作事件までは学校でクラスメートらからちやほやされることを当然のこととして、その地位に胡座をかいていたフシがあるのも含めて、良くも悪くも自己評価は高い。
あえて言えば少々尊大で自惚れている。
自作漫画が賞を取ったときの授賞式での記者からの質問に対しても、帰りのタクシーの中で「つまらない質問ばっかしやがって」みたいに愚痴るところなどもその一端ですね。

それでいて授賞式の壇上では若くしてデビュー作が認められたことに対して「身に余る光栄です」などと適切な社交辞令をキチンと述べるという、なかなかの大人のふるまいを心得た側面も。

つまるところ、「男の子向けヒーローものに登場する女性戦士なんだからこんな感じでイイだろう」とか「息子といっしょに視聴するお父さんにウケる女性像の女の子ってったらこうでしょう」みたいな安易な発想・因習的なテンプレには与せずに、きっちりと等身大の10代の女性の「今」を多面的にキャラに落とし込んであるわけですね。

もしも、一昔前には卓越的だったかもしれない「女の子は少しバカなほうがカワイイ」「ドジでおっちょこちょいなのが愛嬌」的な価値基準に則るなら、「鬼頭はるかは明るく元気なの(だけ)が取り柄の高校3年生!」なんていうあたりが鉄板となるわけですし、現にほんの20年前あたりならソレがまだ定番だったのではないでしょうか。

そうして、そんな方向性とは 202度くらい異なる設定がOKになったのが、この令和4年なのだということになります。

もちろん鬼頭はるか、上述した自己肯定感の高さの裏返しであるちょっと尊大なところもある反面、他人を思いやる気持ちも多々持ち合わせており、人情の機微にも長けていたりします。
なので困っている人を見ると、わりと放っておけないタチだったりも。

それゆえ、敵の襲撃で一般市民が危険にさらされているような際には、率先して変身し、人々を守ろうとしたりもしています。
そういう「ヒーローとしての自覚」は、いわばドンブラザーズのメンバーの中では最もしっかりしているようにさえ見受けられます。

当然に、ヒーローとしての資質、敵との戦闘の能力が男性メンバーよりも劣るような描写にはなりません。
バトルシーンでは性差は特に問題にならずに、全員が同等に個性を活かして活躍しています
(ドンブラザーズに限らず、ソレは今に始まったことではないのですが)。

もはや、この時代の戦隊ヒーロー、女だから・男だからという見方はあまり意味はない、そういう域に達していると言っていいのかもしれません。

そういえば第1話で、鬼頭はるかが突然オニシスターに変身することになってしまい敵との戦闘に巻き込まれた際、状況に戸惑いはしても、尻込みしたりはせずに、変身の効果で防御力や身体能力が向上しているのを確認しながら、初めてのバトルをわりと器用にこなしてもいました。

「いつ もし本当にプリキュアになっても大丈夫な心構えは 常日頃からできている」(!?)というのも、ある意味この2020年代の女子高校生としてのリアルであるかもしれません。

そして、第1話のあれはじつは視聴者にとっては、なんと主人公が変身するメインヒーローであるレッドのドン・モモタロウを差し置いて、作中でいちばん最初にドンブラザーズのメンバーの変身~バトルが描かれた場面なのですね。

物語全体も鬼頭はるか視点で進んでいると解せるところがあり、その意味では『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主人公は「鬼頭はるか」というのもあながち極論ではなかったりします。

作中で最初に変身するのが「女性」、物語が「ヒロイン」目線で進行、これは男児向けというマーケティングで制作される番組としては、いささか思い切った試みに思えます。

まぁ『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』は、全体としていろいろ変則的な構成にはなっているので(視聴者に対してあまり状況設定の説明がなく有耶無耶のうちにストーリーが進行していて、それでもオモシロイから引き込まれてしまうという荒業が成功しているのですが、なんと作中の登場人物たちにとっても状況はよくわからないまま話が進んでいて、今後どのようなどんでん返しがあるかも読みきれない; ※本記事は第19話までが放送済みの段階で記述しています)一概には言えないですが、それでも、このあたりのことが企画会議でOKを取れるというのは、時代の進展の賜物でしょう。

実際にオンエアを経ても、視聴者の男の子たちのボリュームゾーンからの反発などはなかったということでよいのでしょうか。

今なお幼い子どもにあっても、ある程度はジェンダーバイアスを刷り込まれてしまうことが避け難い中で、それでも子どもたちの認識の中で、「男女」をめぐる態度が柔軟になってきているのならば良い変化です。
戦隊シリーズ(をはじめとする男児向けマーケティングで制作されるヒーローもの)とプリキュアシリーズの内容が近接・交錯してきている昨今の情勢とも呼応しているのかもしれません。

なお、メインターゲットよりは上の年代の特撮ファンのSNSなどでの反応を見た限りでは、そうした層にオニシスター・鬼頭はるかは好意的に受け入れられており、ファンアートなども多数。
今日の若い特撮ファンにとっては、やはりこのような「ヒロイン」こそが魅力的になってきていると捉えられそうです。いわば、一昔前の基準に照らせばあまりカワイクないヒロイン像ゆえに「可愛い」。
そういう変化は、もっと肯定していかねばならないでしょう。

そんなこんなで、今般の「戦隊ヒロインとしての新機軸・鬼頭はるか」、今日の「戦隊ヒロイン」に求められる「自立した女性」像を的確に体現し、現役女子高生という設定をも上手いこと活用しながら、今どきの10代女性のリアルを印象的に描き出すことに成功したと言えるのではないでしょうか。

ちなみに鬼頭はるか役を演じている俳優は「志田こはく」さん。

2022年の誕生日をもって18歳となる2004年生まれとのことで、公式プロフィールには明言されていないものの、年齢的には今まさに役柄と同様に現役女子高校生ではないかと思われます。

そして2004年といえばプリキュアシリーズの放送が始まった年。つまるところ志田こはくさん、完全なるプリキュアネイティブです。

戦隊ヒーローものに出演するにあたって、かように「ヒロイン」ポジションとしては新機軸なキャラ付けの役柄を、きわめてナチュラルに演じられるというのも、この「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」ならではの感性の賜物なのかもしれません
(実際にインタビューで、小さい頃にはプリキュアを視聴していたと語っていたりもする ※「初々しい戦隊ヒーロー美少女:志田こはく/シネマトゥデイ https://www.cinematoday.jp/page/A0008303 」)。

そういえば、『デリシャスパーティ プリキュア』で筆頭プリキュアであるキュアプレシャスに変身するメイン主人公「和実ゆい」役の声優である菱川花菜さんも2003年生まれとのことなので、ほぼ同世代。

この2人が同時期に「ものすごく新機軸!」で共通するというのも、その意味ではもはや必然的でしょう。
やはり侮れない「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」。

おそらくは、こうしたプリキュアネイティブ世代が、この先ますます社会の中核を担うようになれば、現行社会に蔓延る古き悪しきコンベンショナリティも、もっと刷新されていくのではないでしょうか。


  


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