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正義の怒りをぶつけろガンダム!? からの「必要なのは剣じゃない」 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

今年・2019年は『機動戦士ガンダム』40周年ということで、公式のほうでも記念企画がいろいろ用意されているようです。

若かりし日にファーストガンダムにハマったオールドオタク諸氏にあっては、そのシリーズが40年続くコンテンツとなり、いまだに新作アニメも制作される現在の状況は、なかなかに感慨深いものなのではないでしょうか。

かく言うワタシも、そのひとりなのですが、それにしても40周年ですかぁ;
1979年当時、中学3年生だったワタシにとってガンダムは、そんな青春の入り口で触れた思い出深いタイトルであることは間違いありません。

というか当時中学3年生すなわち15歳だったというのは、私たちは作中の主人公アムロ少年と同い年だったということです。
それだけに、余計に感情移入にも熱が入ったというのはあるかもしれません。

で、まぁ40年も経ってしまっているので、現在の私たちが当然にブライト・ノア19歳とかシャア・アズナブル20歳といった、あの頃は相応に年長に見えた人たちのトシを(とっくに)追い越してしまっているのはいたしかたないことでしょう。
………え゛っ ランバ・ラル35歳!?
(主観のうえではやっとこさああいうシブい大人たりえる年齢になってきたかなという今日このごろなのですが;)


あと中学3年生のときのガンダムがらみのエピソードとしては「集団カンニング事件」もあります。

社会科のテストで「部分的核実験禁止条約」が正解となる出題があったのですが、どうもワタシたちのクラスではたまたま担当の先生が教え忘れていたのか、教科書の隅にチラっと載っているだけだったので、誰も正解に思い至りませんでした。
とはいえテスト中は皆なんとか正答を書こうと頭を捻ります。

「うーん、核を禁止する条約かぁ」
「核兵器、禁止、の条約……」
 「「「「「あっ!!」」」」」

そこで少なくないクラスメートたちの脳裏に浮かんだのが、少し前に放送された『機動戦士ガンダム』第25話「オデッサの激戦」での、勢い余ったマ・クベが発射した核弾頭ミサイルに対して叫んだアムロの台詞。

《核兵器は南極条約で禁止されてるのに!》
※あくまでもリアタイ当時の記憶をもとにして再現するとこうなるのですが、実際には細部は異なります

かくして通常なら「部分的核実験禁止条約」と解答欄に記すべき設問に対する誤答として、そんなにも複数人の間で重複することはありえないはずの「南極条約」という珍解答が続出してしまい、集団カンニング行為が疑われる事態となってしまったのでした。

てか「南極条約」って条約名自体は実在するから余計にみんな正解の候補としてソレっぽさを感じて書いちゃったんですよね、これw


そんなこんなで当時、番組の視聴率やスポンサーが発売した子ども向け玩具の売上が低迷したのとは裏腹に、『機動戦士ガンダム』が中高生の心をガッチリ捉えていたのは紛れもない歴史的事実です。

その理由はと言えば、端的に述べるなら「お子様向けではない」ロボットアニメの可能性を示したから。

精緻で綿密な設定に基づいた周到な描写。
一筋縄ではおさまらない重厚な物語。
そして存在感に真実味がある魅力的な登場人物たち

これら、ご都合主義にはおもねない「リアル」な世界観が、それまでの、主人公が叫んだら必殺武器が発動して敵が吹っ飛んで終わるようなスーパーロボットものを、いくつも視聴してきた果てに、そろそろ卒業しようかと考えていたティーンエージャーには、すこぶる画期的で斬新に映ったわけです。

そうして、そんな作品を通して示される戦争という現実の実相と、その背後にある社会たるものの複雑さ。

これらが、大人の入り口に立つ若者たちの琴線に刺さるのは必然だったと言えるでしょう。

こうしてガンダムが拓いた新路線は、以後「リアルロボットもの」としてアニメの人気ジャンルとして確立していくことにもなりました。


しかし当時その『機動戦士ガンダム』にあって、「いやいゃぃや、ソレは違うやろ!」と、私たちをして盛大にツッコミを入れさせていた事項があります。

それが、そう、主題歌歌詞中のこのフレーズ、
※OP主題歌「翔べ! ガンダム」作詞:井荻麟

「正義の怒りをぶつけろガンダム」!

 BL190400_GundamJts.JPG
§画像は公式のサイト等よりキャプチャしたもの。以下この記事中同じ


……………。

上述したように、ガンダムのストーリーは単純な枠組みに収まらない重層的な展開で戦争のリアルを描き出し、旧来のお子様向けアニメの範疇を超えるものとなっていました。

したがってガンダムを操縦するアムロ少年の戦いが、悪の権化のジオン軍に対して正義の地球連邦軍として怒りの制裁を加えていくようなものでは決してなかったことは、誰の目にも明白だったわけです。

その意味では、この主題歌のココのくだりは明らかにオカシイ(^^;)

まぁおそらくは、従来の慣習を改めるのが主題歌の制作時点には間に合わなかったのではとか、子ども向け玩具を売りたいスポンサーの要望とかがあったんだろうなぁとか、当時の中高生たちは「大人の事情」を慮ってもいたので、こうしたツッコミも、ガンダム視聴に基づくトークの楽しみの一環ではありました。


ちなみに「正義」の文言はやはり根が深くて、ロボットアニメ主題歌からなかなか姿を消せませんでした。

富野監督による次の作品とも言える『伝説巨神イデオン』では「大地割りそそり立つ姿、正義の証か」とギモンを仄めかす助詞が付きつつも出現します(「復活のイデオン」作詞:井荻麟)

『聖戦士ダンバイン』では「伸びる炎が正義になれと」ともはや願望だったり「殺し合うのが正義でない」と明確な否定の文脈に置かれたりしてるのに文言自体は歌い込まれる結果になっています(「ダンバインとぶ」作詞:井荻麟)

今にして思うと「井荻麟」とは富野監督の作詞時のペンネームなので、富野氏としてもいろいろ試行錯誤していたのでしょう。

直接の続編である『機動戦士Zガンダム』の1985年にもなると、ロボットアニメ主題歌がいわゆるイメージソングのような曲である事例も当たり前になるので、この問題は解消されるんですけどね。
「星が降りしきるペントハウスで空のオルゴールひとり聴いてた」で始まる、『機動戦士ガンダムZZ』後期主題歌だった「サイレント・ヴォイス」(作詞:売野雅勇)なんて、戦いやロボットを想起させる印象はきわめて薄く、「正義」も、そして「ガンダム」ももはや歌い込まれてはいません。


話を戻すと、これはすでに1979年の時点で、当時のアニメファンであるティーンエージャーたちは、

正義の胡散臭さ

をこそ、アニメが描いてくれるのを期待しており、『ガンダム』の本編の内容はむしろそれにしっかり応えていた、と言うこともできるでしょう。

実際、アムロが「怒りをぶつけ」るシーンとして最も印象深いひとつは、戦死した仲間に対して地球連邦軍のエライ人が「名誉の戦死でしたので二階級特進しときますヨ~。良かったですねぇ、ハハハ…」みたいな態度をとったときです
(第30話「小さな防衛線」での挿話ですね)

その怒りの直接の対象となっている地球連邦軍のエライ人というのは、本来的には味方陣営なわけですし、背後には、戦争という状況の理不尽さや戦争を引き起こしてしまうような社会状況に内在する不条理さへの嫌厭も積もり積もっていたのが、ここで爆発したと見ることもできるでしょう。

15歳の少年が大人社会の闇に対して抱える感情としては、同年代にとっては非常に共感できるものでもあったと言えます。
……盗んだガンダムで走り出す~♪

いずれにせよアムロの戦いのモチベーションが本来的には悪のジオン軍に対する正義の怒りなどでは決してなかったのは疑いないことです。
(にもかかわらず、上述の同じシーンではアムロ達は正式に辞令を受けて軍の一員としての階級を付与されて組織に組み込まれ、その戦いが公の論理に絡め取られていくことにもなります。それが後のあの悲劇にもつながるわけですが…)

特に第1話「ガンダム大地に立つ!!」を今日において再視聴するとあらためて気づくのですが、アムロがガンダムに乗るに至る経緯が、平穏な日常が侵襲を受けたことに対する憤りや、そんな中での「みんなを守りたい」という気持ちに裏打ちされたものであることは、明確に示されています。

その意味でも「正義」よりも、「ケア」や「キュア」なわけです
(※先ほど「15歳の少年」からなぞらえて尾崎豊ネタを少し入れましたが、よく考えると第1話「ガンダム大地に立つ!!」でのアムロがガンダムに搭乗するプロセス、正規の手続きを経ずに軍の機密物品を奪取していることになるので、厳密にはまさにガンダムを盗んでいるわけですし、その点からも「正義」からは遠い行動だと言えるかもしれません)

ロボットアニメの主人公が、キャロル・ギリガンが言うところの「正義の倫理」ではない「ケアの倫理」で戦うことの意義については、以前に述べました。



しかし、こうしたプリキュアシリーズが長らく継続して女の子たちが「ケアとキュア」を主眼に戦って敵をも救済するストーリーがあたりまえになる時代のはるか前である1979年に、初代ガンダムがその嚆矢とも言える物語を展開していたというのは、刮目すべきことではないでしょうか。

実際、ガンダム第1話「ガンダム大地に立つ!!」のプロットを見比べてみると、プリキュアシリーズの第1話でよくある展開と、かなりの相同性を感じます。

それを象徴する事例については、以前にツイッターで少し触れています。

 



もちろん『機動戦士ガンダム』にあっては、戦争という状況の「現実」を描き出すという側面もまた意義があるものでしたから、一概には言えません。

その後のガンダムシリーズも各陣営が各々の正義を抱えて対立する図式が常態化すると、そがゆえにさまざまな悲劇もそこで繰り返されたりしたものですが、だからこそ描けたドラマもまたあるでしょう。

しかし一方で、今日では「ケアとキュア」の論理が有効に奏功するケースを示すことが多々おこなわれており、そうした作品群が好意的に受容されているのは、ひとつの「理想」を示す実践という観点から、やはり大いに意義があるでしょう。

ガンダムシリーズでも、現実の戦争とは距離を置いて主人公らの日常に根ざした舞台設定で物語を展開する方策はいろいろと登場しています。



そうして何より、主人公らが「ケアとキュア」で戦う作品としてのトップランナーであるプリキュアシリーズは、年々さまざまな試みに磨きがかかってきています。

現時点でのその真骨頂はと言えば、2018年度の『HUGっと!プリキュア』における、第11話「私がなりたいプリキュア!響け!メロディソード!」でしょう。

『HUGっと!プリキュア』が総じて素晴らしかった件については、先日こちらにまとめたとおりです。



そのうえで第11話を振り返ると、これはまずは、ひょんなことから自分に自信が持てなくなってしまった主人公・野乃はなが、仲間や家族の応援で自分を見つめ直して気持ちを持ち直し、心の成長を果たしたことに対応して、プリキュアとしての新しい力、具体的には新アイテムが獲得されるエピソードだというのが大枠です。

野乃はな……が変身したプリキュア・キュアエールの決意に呼応して出現したクリスタルは、そうして《プリキュアの剣》へと形状を変化。
それを手に取ったキュアエールは力が漲ってくるのを感じます。

そうしてキュアエールは《プリキュアの剣》を構えると、力強くジャンプし、決然と敵モンスターへと斬りかかるのでした。

普通ならココでプリキュアは新武器のパワーで敵を一刀両断。
事態は無事に収拾されてめでたしめでたしとなるはずでした。
いえ、むしろ「正義」であれば、そうするより他はないのです
(例えば「ノンマルトの使者」などの『ウルトラセブン』のうちの後味悪い系エピソードというのは、ウルトラ警備隊が公の正義の論理で動く組織であるために「そうするより他はない」がゆえだったとも考えられます)

ところが、剣を振り下ろそうとした瞬間、キュアエール……に変身している野乃はなに、敵モンスターの素体にされてしまっていた敵幹部の本心が見えます。
それは、自分と同じように自分に自信が持てずに劣等感に苛まれていたというもの。

そのことを知ったキュアエールは剣を放棄。
そうして敵幹部の心さえ救済するのがプリキュアであるという理念にあらためて気づくと、敵を優しく抱きしめるのでした。

 BL190427_GundamJts-NoSword.JPG

さらに、なおも存在をアピールする《プリキュアの剣》に対しては、野乃はなが穏やかに諭すように告げます。

「ちがうよ、必要なのは剣じゃない」

こう言われた直後に剣は、なんとバンダイの新商品に形状を変えるので、子どもにプリキュアのおもちゃをねだられた経験がある親世代としては苦笑も禁じ得なかったりしはしますが、しかしソレを割り引いても、この「必要なのは剣じゃない」はものすごく重要なことを言っていますし、今日のプリキュアイズムを象徴するフレーズではないでしょうか
(ちなみに、剣から変化したバンダイの新商品は楽器モチーフです作中ではその新アイテムを使って発動するプリキュアの新必殺技は、プリキュアシリーズの通例にたがわず敵モンスターの凶暴化の源泉である闇のエネルギーを除去して素体となった人を救い出す「浄化技」です)

このような、正義ではなく「ケアの倫理」が世界に相互理解と共生をもたらし、無益な争いの終結が実現されていくモデルケースが描かれることは、近年のアニメではとみに主流となっています。

昨今のこうした方向性の進む先には、ある種のあるべき未来の実現が待っていると期待するのは、はたして楽観に過ぎるでしょうか。


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