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聖地巡礼をめぐる文化と経済のポリティクス [経済・政治・国際]

アニメの舞台として作品中に登場した実際の場所を探訪する、いわゆる「聖地巡礼」が注目されています。
もちろん「NHK大河ドラマ」をはじめとして実写モノではご当地が盛り上がる現象は以前からあったはずなのですが、やはりここはアニメというのが新しいところなのでしょう。

そこで、先日ワタシが実際にアニメ『輪廻のラグランジェ』の舞台・千葉県鴨川市を探訪してみた体験を元に、少し考察してみます。
(鴨川探訪の基本的な詳細の報告はお知らせブログの記事のほうで
  →「ようこそ鴨川へ!」)


実際に千葉県鴨川市へ行ってみると、体感されるのはやはり経済的な厳しさです。

アニメに登場する印象に比して、リアルの街並みは妙に鄙びているとでも言いましょうか。
アニメの中でも、市街戦の巻き添えで(物理的に)つぶれてしまった店舗が、それに先んじてすでに(経営的に)つぶれてしまっていたために人的被害がなかった……などという描写がありましたが、個人商店のみならず、駅前のイオンが入っているショッピングセンターにしても、どちらかと言えば寂れた印象があったくらいです。

統計的なデータと照らしあわせても、たしかに人口は漸減しており、全国平均と比べても高齢化が進んでいる傾向が見て取れます。

むろんこうした事態は全国的であって、千葉県鴨川市に限らずたいていの地方都市に言えることかもしれません。

この問題に抜本的で長期的視野に立った方策を立案・実施していくのは本来政治の役目なのですが、地方自治レベルではできることが限られ、国政レベルでは各地方の実状を踏まえた動きが取りにくいというジレンマに陥っているきらいもなきにしもあらず。

そんな中で、我が町がアニメの舞台になるということになれば、経済効果を期待する声が上がるのも無理からぬことですし、少ならかぬ成功した前例があると、ウチでも事前に積極的な対応をおこなおうという動きも理解できることではあります。

実際問題、アニメがなければ殊更に行こうとは思わなかったはずのワタシがかように鴨川へ来訪し、おらが丼を食べ、温泉に宿泊しているのですから、経済効果は確かにあるのです。

ただ、地元があまりにもソレを狙いすぎると、訪れる身にすればちょっとイヤラシい感じがするのも事実。

また、商工会など(!?)が先走りすぎて、一般住民の盛り上がりが一様にはついていかないという問題もあるやもしれません。

例えば個人の店先にもポスターが掲示されていたり…

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市民会館にも…

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エントランスにはポスター2枚貼りなのですが…

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このような取り組みが、行政や商工界、一般市民が一体となって連携を取れているかというと、今回の私の訪問で見た限りでは、少なくともハッキリとした成果は確認できませんでした。

この記事を書いている2012年5月現在、『輪廻のラグランジェ』は第1期の放送を終了し7月の第2期待ちなのですが、他方では『夏色キセキ』なるアニメが伊豆の下田を舞台に展開されており、静岡県下田市のほうでもいろいろと「聖地巡礼」を狙った企画に余念がないなど、同様の動きは広がっています。

しかし、上述したような課題としっかり向きあって、丁寧に事を進めるのでなければ、この先大コケする自治体が出てこないか心配は残ると言えるのではないでしょうか。


その一方、今回の鴨川訪問で、私が満足を得られたのは、やはり自分が気に入ったアニメの舞台となった現実の土地を間近に見ることができ、その具体的な実状を身近に体感できたという点です。

特に『輪廻のラグランジェ』の作品中の主人公は、鴨川の町をこよなく愛する、郷土愛に満ちた少女です。
彼女が愛する鴨川とは、いったいどんな場所なのか?
ひとりの少女がなにゆえに、あそこまで熱心に鴨川を守る戦いに勤しめるのか?

そのあたりが強い関心となったのが、そもそもの今般の千葉県鴨川市へ行ってみたいという動機となっていたのです。

しこうして、鴨川の空気に触れ、その街のエートスを感じ、そうして彼女の鴨川愛の一端に自ら体験的に触れることができたというのは、まさに「聖地巡礼」を実践した成果だと言えるでしょう。

いゃ、まさに『輪廻のラグランジェ』主人公・京乃まどかがジャージ部魂で愛する鴨川は、なるほど、美しい山と海に抱かれた平和で豊かな町でした。
行ってみてヨカッタです。

……本来的には聖地巡礼の意義とは、このあたりにあるはずです。

経済効果ばかりに目を奪われず、自分たちの郷土の文化に自信と誇りを持って、来訪者へのホスピタリテイを発揮することが、何よりもまず基本にあるべきだというのは、さて、あたりまえにすぎるでしょうか。


最後に、温泉旅館のロビーなどにも、このようなポスター掲示は見られました。

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何気ないことではありますが、むしろ事情をよく知らない人がこうした様子を見た際、まぁ何かがあるんだなと、無意識の奥に軽く記憶してくれることは、後々思わぬ繋がりとなって生きてくることはありえます。

また、それが「ロボットに乗るのが女の子だというのも今どきのアニメでは普通」という認識にも知らず知らず連なるなら、こうやって広く展開されることのもうひとつの意義ともなってくると言えるでしょう。


安易な経済効果狙いは戒められなければなりませんが、この「聖地巡礼」ブームを上手くとらえて、訪れる人と受け入れる側とその周辺の交流を紡ぎ出せれば、それはお金で測ることができる以上の価値を生み出すことにもなる――。
このことは大いに評価してよいのではないでしょうか。

   


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