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偉いフェミニストの先生、水星の魔女を観ましょう [メディア・家族・教育等とジェンダー]

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の事前情報を知ったのは、今年2022年の初夏の頃だったでしょうか。

ガンダムシリーズ令和初の新作アニメは女性主人公学園もの!

そんなアウトラインが示されて、多くのファンが斬新さを感じたのはもちろんです。
ワタシも「女性主人公の学園ものガンダム」については、そろそろ観てみたいと予てより思っていました※ので、これは朗報に他なりません!

※こちらなどでもソノあたりの妄想を書き散らしてますので、参考までにご笑覧ヲ
→ [5:機動戦士ガンダムの隘路]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2014-05-05_PC5-Gundam


そう思って公式サイトをチェックすると、主要キャラの紹介も出ています。

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なるほど、このスレッタ・マーキュリーが主人公。
辺境(水星)から学園に転入してくるという設定のようです。

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そして、その主人公を取り巻くように配置されている複数の男性キャラ。3人とも、いわゆる良家の子息的な趣です。
想像するに『花より男子』の「F4」のように(←3人ですが;)スレッタと絡んでいくのでしょう。ある種『花男』へのオマージュが入った設定なのかもしれません(実際に放送開始後の展開を見ると、そうだと言える面が大。当記事は2022年12月4日放送の第9話までの視聴に基づいて記述しています

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一方、もうひとり重要そうな位置で紹介されている女性キャラ、ミオリネ・レンブラン。
これも察するに主人公スレッタと関わっていく主要人物っぽいです。
むしろこのスレッタとミオリネの関係性進展が物語の主軸となっていくのではないか?
そういうガール・ミーツ・ガールものと言えば、まさしく時代の最先端なのではありますまいか!?
そのあたりも、これまた想像に、というか妄想を膨らませるのに難くありません(こちらも後述のように実際の放送開始後には概ね正しかったことになります)
はいはい、百合が咲きます大切にしましょうw

 → 機動戦士ガンダム 水星の魔女 公式サイト
  https://g-witch.net/

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 ※当記事中のガンダム関連画像は上記公式サイトや放送画面からキャプチャしたものを引用要件に留意して用いています


そんなわけで事前の期待値は相応に高かったわけですが、さりとて実際にどんな中身なのかは、やはり蓋を開けてみないことにはわかりません。

とりあえず軽い気もちで、ワタシは10月2日、『水星の魔女』第1話の視聴に臨みました。

………30分後、
ワタシは叫んでいました。
「なんじゃこりゃ~っ!!」
良い意味で。
良い意味での予想の斜め上で、ビームサーベルでコクピットをピンポイントで一突きされた、そんな感覚です。
や、やられた~っ;

はい、まず、大方の予想に違わず、学園に転入してきたスレッタとミオリネ、ひょんなことから近しい関係となります。やはり、この2人の関係が、物語の最前景として取り扱われていくようです。
ガンダムで百合。待ってました! いいぞもっとやれノ

と、そこへ現れる(『花男』の「F4」だと、いわば道明寺に相当する)グエル・ジェターク。
なんとミオリネの「婚約相手」としてすこぶる高圧的な態度に出ます。
なんでも、この学園では様々なことが生徒同士のモビルスーツを用いた決闘で決められ、その決闘を重ねた末の最強最高の勝者は「ホルダー」の地位を獲得、ミオリネの婚約者となるのだそうです。
これは、学園を運営する企業グループを束ねるトップ・総裁として君臨するデリング・レンブランの意向であり、このデリングこそがミオリネの父でもあったのです。
ミオリネは、そんなふうに自分の意思をまったく無視した取り決めを強要する父親や、自身が経営戦略のコマとして利用され人格を顧みられないルールに、心底反発しており、この現状の打開を予てから画策してもいました。そうした事情を唯々諾々を受け入れる薄幸のお姫様ではないというのは、令和クオリティとしては当然ですね。
まぁ現実にあったらとんでもない権威主義、家父長制的で、人権上モンダイな設定なのは言うまでもないです。ですが、ソコはまぁ、フィクション。そういう世界観の中で、さて、何が描かれていくのでしょうか?
で、そんなわけでモビルスーツ操縦の腕前は学園でピカイチ、決闘では連勝を重ねて「ホルダー」の地位に在り、しこうしてミオリネの婚約者となっているグエル。このときもミオリネに対して支配的・威圧的に振る舞うのですが、ミオリネがこれに激しく反発すると、勢い余ってミオリネが大事にしている私物を破壊するなどの狼藉に及びはじめます。
曰く、俺は今まで甘すぎたようだ、これからは将来の夫としてビシバシ厳しく行くゾ、オマエはおとなしく俺のモノになっておけばイイんだ。
さしずめ私たちの現実世界で言うところの、マチズモを内面化してしまい、ヘゲモニックマスキュリニティを身に着けてしまった男性の行動原理の典型例ということになるでしょうか。
ここで、かかる状況を見かねたスレッタ。おそるおそるグエルを止めに割って入ります。
しかし、水星には若年人口が少なかったため学校に通うのもこれが初めてのスレッタが、慣れない学園の環境でいささかコミュ症気味におどおどした物腰なのを見たグエル、完全にスレッタを単なる世間知らずな田舎娘と見下します。
そうして、学園の習慣を持ち出すと、文句があるなら俺と決闘しろと煽るのです(前述のとおり、各種の揉め事もこの学園ではモビルスーツどうしの決闘で決着されるのです)。むろん、そう言えば恐れおののいて引き下がるだろうとグエルは考えており、本当にスレッタと決闘する気はなかったでしょう。てゆか「ホルダー」の自分と、こんな田舎者とでは勝負にもならんワ!
ところがスレッタの回答は、じゃあ、します、アナタと、決闘!!
そんなこんなで、番組的には見せ場でもあるモビルスーツ戦、息巻くグエルに対し、スレッタが水星から持ってきた愛機エアリアル(これが本作でのガンダム)は、スレッタの盤石の操縦のもと、その性能をいかんなく見せ付けて圧勝します。
あまりの瞬殺に、グエルは何が起きたかよくわからずにポカ~ン( ゚д゚)
……こうしたプロットにより、つまるところ権威主義的、家父長制的な価値観や、それらを肯定的に内面化したマチズモ漲る行動原理が、バッサリと否定されたことになります。いわゆる男性ホモソーシャル権力機構の価値基準が覆されたと言ってもよいでしょう。
なので、この『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、まさにジェンダー論の教科書の重要項目のひとつを早々にクリアした第1話だったということになります。まさに「フェミニズムが評価すべきガンダム」ではありませんか!! ですから「フェミニストの偉い先生」方、『水星の魔女』を観てくださいノ

(2023/02/07)
ネット配信での視聴、各種プラットフォームでのいわゆるサブスク契約があると全話とも視聴が容易ですが、そうでないと第1話も有料化されています。
が、オンエアの際の「6.5話」だった6話までの総集編は無料で観れるようです。上述したエッセンスについてはこちらでも確認可能でしょう。
 → まだ間に合う!『機動戦士ガンダム 水星の魔女』スペシャル特番
  https://www.nicovideo.jp/watch/so41356825 (ニコニコチャンネル)

さらにきわめつけはココから。
決闘でグエルに勝利したスレッタにミオリネが告げます。
現行ルールに従う限り、「ホルダー」に勝ったのだから、今日からはアナタが「ホルダー」、つまりこれからは自分の婚約者はスレッタなのだと。
わ~ぃ、百合婚だぁ(*^^*)
……などと呑気にオタい反応をしていてはいけません。
「アタシ、女ですけどぉ……!?」
と、「常識的」な反応をするスレッタにミオリネはこともなげに言い放ちます。
「水星ってお堅いのね。こっちじゃ全然アリよ」
……………。
え゛っ、そーなの!?!?
そりゃ今どき、女性どうしの同性愛的な親密具合が描かれるアニメなんて珍しくはありません(珍しくなさすぎて代表例の列挙すらできないくらい)。
ただ、それはそうとしても
[ 同性婚はまったくフツーのことである ]
そう断言されて第1話が終わる新番組なんて、どうして予測できたでしょう。
ぅっわ、画期的すぎる!

かくして、ジェンダー観点からコメントしないといけないようなポイントてんこ盛りの『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1話を観終えて、ワタシは思わず叫びたくなるほどのエモさを感じてしまったというわけなのでした。

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もちろん第1話終了時点では、「水星ってお堅いのね」「こっちじゃ全然アリ」が、話を締め括るための単なるキャッチーな台詞回しだっただけな可能性もありました。
しかし、その後の各話の様子を見るに、どうやら本当にこの作品世界では皆が同性愛なんてべつにフツー・同性婚も「全然アリ」だと思っている、そういう価値基準の世界観になっているようなのです。

なんとなれば、その後も決闘に連勝し婚約関係が継続するミオリネとスレッタが女どうしである点は、特段のモンダイにはなっていない、とりたてて珍奇なことであるとも認識されていない、そんなふうな描写になっていると読み取れます。

関連して、先述のグエルには、いわゆる取り巻きとしてグエルを慕う女子が複数いるのですが、それがあくまでも純粋にスーパーパイロットしてのグエルのモビルスーツ操縦の腕前に惚れ込んでの敬愛であって、「異性としての恋愛感情」ではないようなのです。

他の「F4」(←違;)のメンバーも、自分の拠点に女性キャラをはべらしている描写があり、一見すると「ハーレム」なのですが、これもまた実態はまったく色恋沙汰とは無縁な集まりとなっていました。

恋愛が同性どうしでもかまわない、と同時に、男女だからって恋愛でなくてもいい、という「好きの多様性」の基本線を、しっかりと押さえて人間関係を描いてくる『水星の魔女』、これはなかなか信頼できます。


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性的指向にかかわる案件だけではありません。

第1話が盛りだくさんだったので、ワタシもすっかり気がつくのが後手に回ったのですが、物語の舞台となっている学校「アスティカシア高等専門学園」、よくよく見るとコレ、なんと制服が《ジェンダーレス制服》じゃあないですか!!

えぇっマジか!?

本当にコレ、基本デザインが男女共通で、全員がこの同じ制服を着用することになっています。
これはヤバい。
『アイカツプラネット』、女子制服のボトムがスカートの他にショートパンツも選べるゾ!」どころの話ではありませんぞよ!!
なるほど、「水星ってお堅いのね」のセリフは伊達ではなかった。

たしかに、マジレスするなら、私たちの現実世界における「ジェンダーレス制服」の理想は、1種類を全員に強要するのではなく、《選択肢を増やして自由に選べるようにする》です(そのあたりは学生服メーカーのトンボの特設サイトにも詳しいです)。
その意味ではアスティカシア高等専門学園のやり方はやや難アリな事例の描写だとも言えなくはないでしょう。

ただ、『水星の魔女』作中では話が進むにつれ、いろんな登場人物たちが着崩したり何らかのカスタマイズをしてる様子がいろいろ登場してきます。
各々のキャラ表現は、制服デザインが男女共通なことには妨げられていないわけです。
これはこれで、たとえジェンダーレス制服でも、個性は出せる・自分らしさは表現できる! というモデルケースを示すことにもなっており、これまた非常に意義があることでしょう。

ちなみに『水星の魔女』第1話のプロットが、じつは『少女革命ウテナ』のそれとそっくりだったという指摘も、両作を知るファンからは早々に上がっていました。
閉鎖的な学園の中で決闘が日常的に行われているなどの舞台設定を見るに、全体の枠組みにも両作の共通項は少なくないです。

もちろん「女性主人公学園ものガンダム」を制作するにあたっては、『花より男子』ともども、こうした過去の名作を参照・オマージュするのも、いわば定石、悪いことではありません。
てゆーか、第1話の脚本を執筆した大河内一楼氏は『少女革命ウテナ』のノベライズ版の作者でもあります。
つまりそのあたりは制作側の確信犯だと解釈してもよいでしょう。

ただ、じつは『ウテナ』第1話には、王子様に憧れるあまり、自分も王子様になりたいと思うようになった主人公・天上ウテナが、その一環として制服は男子制服を着用している、そのことを生活指導の教師に咎められ一悶着起きるというシーンがあります。

ですが……、これと同じことは『水星の魔女』の舞台たるアスティカシア学園でなら起きない、起こり得ないんですね。
そも制服に女子用男子用の区別がないので。

あれだけ物語の枠組みや第1話のプロットを似せて視聴者に連想を促しておきながら、ソコのところが『ウテナ』とは明確に違う。
すなわち、『ウテナ』で扱われたような(そして私たちの現実世界にも未だ残る)各種のジェンダー問題は『水星の魔女』の作中世界では、もはや解消していますよ。そういう世界観の中で本作の物語は進行しますよ。そういうメッセージを深読みすることもできてきましょう。

実際ストーリーの進行を見守ってみると、現実世界の私たちなら知っているようなさまざまな性別役割分業等々はほぼ排除されています。全体的にジェンダー規範の存在感が希薄なのです。
性の多様性は当然という認識が皆にしっかり共有されているのはもとより、作中の誰もが「男は男らしく・女は女らしく」といった観念と距離を置いている、否、まずもってそういう考え方自体を知らない、そういう雰囲気が濃厚だと言い換えてもよいでしょう
(なので先述のグエルの第1話での蛮行も、本人にとっては、さまざまな価値観を内面化してしまったがゆえではあっても、単純に「男だから」ではなかったことになりますし、そのことが読み取れる挿話もある。そのあたりの描写の深さも、本作なかなか秀逸です)

しこうして、すべての登場人物について、誰が女で誰が男かなんてことはあまり意味がない・どうでもいいことだという前提で話が動いている、そういう作劇になっているとも言えてきます。
いわば、どのキャラが女か男かは、視聴者の自主的な解釈の中にしかなく、作中には存在しない。

このあたりも『水星の魔女』、じつに周到で丁寧なつくりになっていると評価できるでしょう。

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 ※佐倉作成、講演で使用しているパワーポイントファイルからジェンダーレス制服についてのスライド
(学生服「トンボ」公式サイト → https://www.tombow.gr.jp/school/original/genderless/


たしかに、『水星の魔女』作中では、「決闘」自体がフィクション世界ならではの珍妙な設定である他、親の意向で娘の結婚相手を決めてしまうような封建的なしきたりも運用されています。

じつは他にも、親世代は企業間の経営戦略や企業グループ内での覇権争いのようなものに明け暮れており、それにともなう権謀術数や、あからさまな陰謀にも手を染めていたりします。
その結果、主人公ら子世代は、親が望む生き方を押し付けられたり、さまざまな策略の片棒を強いられたりもするのです。
あまつさえ、スレッタの母親までもが、どうやら自身の秘めた目的(復讐?)のためにスレッタを利用している・真相を隠したまま学園に送り込んでいる、そういうフシも窺えます。

とはいえ、この状況は、それ自体が肯定的に描かれているわけではなく、むしろ子どもたちがこれらをはねのけ覆し、自分自身の道を掴んでいくための、成長課題としての、作劇上の素材のひとつではありましょう。

だからこそ『水星の魔女』の主題歌もまた、
「誰かが描いたイメージじゃなくて/誰かが選んだステージじゃなくて/僕たちが作っていくストーリー」「呪われた未来は君がその手で変えていくんだ」(YOASOBI『祝福』 作詞:Ayase)
あるいは
「君よ 気高くあれ/迷うな 少しずつでいいんだ/宿命を超えて再び進め」「二度と誰かに自分を決めさせないと誓え」(シユイ『君よ 気高くあれ』 作詞:ryo)
 などと歌っているわけです。

そうして、作中の主人公らが、強要された古い価値観に基づく人生を拒み、そのオルタナティブたる新しい生き方を模索しながら自己実現を図っていく、そこに至る物語が今後の展開を通じて示されていくことは、現に視聴者からも大いに期待されているところです。

以て、視聴者、特に若者世代に対しては、旧弊に絡め取られることなく、自分らしく、自分のやりたいことを選び、なりたい自分になればよい、そういうメッセージになる――、それが制作側においても企図されているに違いありません。

そして、その際、視聴者にとっては最もそれを妨げる要因のひとつである、私たちの現実世界にはいまだ根強い各種のジェンダー規範やセクシュアリティにかかわるしきたり、それが『水星の魔女』作中には……ない!

これは絶妙な匙加減です。

このことが、逆説的に、視聴者が戦うべき真の敵は、まさにこのジェンダーやセクシュアリティをめぐる因習の数々なのだと、伝えることにもなっているのではないでしょうか。

ぃや、じつにスバラシイ。
これらが、一部のアニメファンのみが知る事実にとどまるのはじつにもったいない。
やっぱり「フェミニストの偉い先生」方は、『水星の魔女』を観るべきですノ


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(『水星の魔女』主役メカ「ガンダム エアリアル」との名前つながりで、ヤマザキのスナック菓子「エアリアル」とのコラボ商品も発売されました)
◇◇


◎ミオリネ一代記としての『水星の魔女』

『水星の魔女』第7話では、スレッタとミオリネは企業グループ主催のパーティーに参加するのですが、いちおうフォーマルな場ということで、2人とも格式に則ったドレスを着用することになります。
その際、そうしたドレスの持ち合わせがなかったスレッタに、ミオリネは自分の手持ちのドレスのひとつを貸すのですが、それを着用したスレッタ曰く
「ちょっと胸がキツイ」

………;
まぁ、胸のサイズをめぐって女性登場人物どうしの間で複雑な思いの交錯があるというのは、さまざまなフィクション作品を通じた定番のネタでもあるので、直ちに不適切な表現扱いするのは拙速というものですが、さりとて、あまりに無批判にやりすぎると、既存の異性愛ルールに存する問題含みな価値観まで含めた再生産に加担してしまうことになるので、注意が必要な題材ではあります。

ただ、このときスレッタはミオリネの「婚約者」。
仮にミオリネが胸の大きさでスレッタに嫉妬するとしても、私たちの現実世界にあるような異性愛主義的な規準の下でのそれとは、微妙に軸線が異なることになるわけですね。
以て胸の大きさが女性間の序列形成のメルクマールのひとつになっているような現状をも揺さぶる効果があるシーンともなっており、このあたりもなかなか巧い。

しかもこのときのミオリネ、
(アンタとは身長~体格差があるんだから)アタリマエでしょ!
とばかりに、スレッタの発言を一蹴。
定番のリアクションはまったく出てこず、あくまでも作品のキャラクターデザインの設定上、スレッタのほうが頭1つ分ほど高身長なせいだ(から当然)というところに落とし込んでいました。

ちなみに作中では便宜上、ミオリネが花嫁、スレッタが花婿と呼ばれているのですが、こうしたフォーマルな場のドレスコードに合わせて装う際、………2人ともレディースのドレスでイイんですね。
スレッタは「花婿なんだから」とタキシードだなんてことは、ゼンゼンない。

この点もまた、異性愛主義的な結婚観からさりげなく距離をおいた描写が、非常にナチュラルに当然のこととして提示されていると言えるでしょう
(なので「花嫁」「花婿」もあくまで形式的な便宜上の呼称だと容易にわかる)。

私たちの現実世界では、結婚式の相談に行ったら「女性どうしでも、どちらかが男装していただけるなら大丈夫ですよ」などと担当者に言われてレズビアンカップルがブチ切れた……なんて事案が、ほんの数年くらい前まではあったようなので、そうした状況がようやく改善されてきた現実の、その0.3歩先を見せることは、予示的政治として大いに有益です。

で、
このときの「企業グループ主催のパーティー」、やはり様々な策謀が渦巻いており、ついにスレッタも「謎深きモビルスーツ[エアリアル]を操る魔女」というレッテルで陥れられそうになります。

しかし、そこへ割って入りピンチを救うのはミオリネ。

ロボットアニメの花である巨大ロボの操縦こそ才覚がありませんが、作中で政治的な交渉事やさまざまな経営戦略の透徹は一手に担当して大活躍する役回りは、他ならぬミオリネなのです。
このあたり、一歩間違うと、というか昭和の古のアニメだったら、「花嫁」ポジションのキャラは[ただ守られるだけのお姫様]になりかねないところを、そうはしないぞ! という工夫が行き届いています。

そうして、このときもミオリネ、大胆な機転を利かせて場の聴衆を説き伏せ、その勢いに乗って新会社の設立計画までぶち上げるのでした。

そんな、巧みな話術で相手を圧倒するミオリネの姿に対しては、「半沢直樹みたい」という感想を述べる視聴者もいたりしましたが、これはたしかに言い得て妙。
大人の世界についての描写では企業間のビジネスの駆け引き等々が(どこかではおこなわれているらしい国家間の戦争よりも)前景化している本作。その意味で経営をめぐっての経済ドラマの側面は必然でしょう
(そのうち株式会社ガンダム社長ミオリネさんが「倍返しだ!!」とか言うところは見てみたいw)。

となると、本作をミオリネに軸を置いて見直してみると、ミオリネが巧みな交渉術や抜群のビジネスセンスで起業家として大成していくドラマなのだという見方もできてきます。
つまり、いわばNHK朝ドラみたいな番組ってことですね。

そんなこんなで、学園もののフォーマットから「花より男子」っぽくもあり、第1話など「少女革命ウテナ」を連想させ、一方で「半沢直樹」的な様相も見せつつ、NHK朝ドラの如き構造も織り込んである。
そして、そうしたテンプレートを効果的に活用しつつ的確に統合して、ジェンダー観やセクシュアリティ観をきちんと今風に適正に整えたところへ《ガンダム》要素を流し込むことで、こんなにも面白い作品になり、かつ多くの視聴者も喝采して大人気となっている。
これはやはり令和時代ならではのケミストリーでしょう。

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◇◇


◎昭和だったらグエルが主人公 (2022/12/26)

さて、第1話では専ら悪役を演じたグエル・ジェターク。

あの蛮行はやはり許されるものではありませんので、たしかにソコは擁護できません。
しかし、第2話以降で、その点がキッチリ断罪され、加えて、第1話での粗暴な側面を見せた背景を含めて、父親や弟への複雑な思いなど、キャラ描写が掘り下げられると、視聴者からの評価・好感度は上がり、ある意味『水星の魔女』きっての人気キャラになっていきます。

第2話以降でも、スレッタとの決闘の再戦で再び敗北した挙げ句スレッタに好意を抱いてしまったり、その流れでスレッタの気持ちを踏みにじったと判じた相手と決闘になって惜敗し、しかし決闘で連敗を重ねたせいで父親からは不興を買い学園を退学させられそうになるなど、非常に不遇な役回りなのですが、それと反比例して視聴者からの好感度・人気はうなぎ登りとなっています。

思えば、「すぐに熱くなる直情的な性格の熱血漢」「日頃からの鍛錬に裏打ちされた自信」、その基底にある「素直さと正義感」、こういうグエルにも該当するキャラ像、記憶の糸を手繰れば、ヒットする事例、ありますよね。

すなわちグエル、令和のガンダムなのでいささか損な役回りを担うことになっちゃってますが、もしも昭和のスーパーロボットアニメだったら、フツーに主人公として、例えばグレートマジンガーあたりに乗ってたんじゃないでしょうか

……そう考えると『グレートマジンガー』の挿入歌だった「鉄也のテーマ(作詞:浦川しのぶ)」の「叩きぬいたこの技は涙と汗の結晶だ~」「俺の根性 見せてやるぅ」「男の意地で戦うぞー♪」あたりの歌詞、なんかもう《グエルのテーマ》に聞こえてきていちじるしく微笑ましいですネ;

もちろん、ロボットアニメの主人公にはすべからく燃える熱い漢しかいない、激しく「男」を推してくるのがキャラ造形のスタンダード、あまつさえ女の子は主人公になれない・あくまでも女性キャラは補助&ケア役割、そういう状況が好ましくないのは論を待ちません。
しかしながらソレがあらためられはじめて既に幾星霜。
この西暦2020年代にあって、グエルのように、いろいろなパターンのキャラ像の一種としての少し「男臭い」キャラクターが、相応の新鮮さをもって若い視聴者に支持されているというのは、話が2周ほど回った果ての、なかなかいみじい事象にも思えてきます。

そしてグエル、
第10話では(本項目のみ2022年12月25日放送の第11話までの視聴に基づいて記述しています)スレッタやミオリネたちが新会社の立ち上げに生き生きと奔走している様子を横目に自身は父親から学園の退学と子会社への就職を勝手に決められてしまった境遇にいろいろ思うところがあったのでしょうか、なんと家出・失踪して、宇宙のどこかで何らかの業者の求人に応じたアルバイト生活に偽名で勤しんでいる様子が登場します。

ぅわぁ、かつては学園の「F4」(←違;;)の筆頭というエリートだったのに、まさかまさかの転落人生!!

……ただ、表面的にはそうなのですが、よくよく内実を吟味すると、以前は父親の価値観に従い、父親が決めた人生のコースに甘んじていたのが、そんな生き方に疑問を持ち、あらためて自分を見つめ直し、自らの進んでいく道を模索し始めているということが、じゅうぶんに読み取れます。
つまり主題歌が言うところの「誰かが描いたイメージじゃなくて/誰かが選んだステージじゃなくて/僕たちが作っていくストーリー(作詞:Ayase)」を、現段階では作中でグエルが最も明示的に実践しているということになります。

まさに『水星の魔女』作中で、いちばん祝福されているキャラクター、グエル・ジェターク!

なかなかオイシイではありませんか。
この先の展開を期待して見守りたいところです。


◇◇
  

◇◇

(2023/07/03)
というわけで『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。
分割2クール目の放送も進み、昨日ついに最終回を迎えました。
1クール目終盤あたりなど途中は血湧き肉躍る展開(!?)もありましたが、最後は学園ものとしてスタートした女性主人公の物語ならではの収まりを見せ、当記事で述べた点を裏切ることもないエピローグに至ったと言えるでしょう。
最終話のつくりがプリキュアのそれと似ていた」という感想も少なくなかったようで、たしかにストーリーの畳み方の構造はプリキュアリティが高いものだったと解せるかもしれません。
いわば『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、まさに《プリキュア20周年時代のガンダム》だったのだということになるでしょうか。

◇◇

◇◇



共通テーマ:アニメ

おもちゃの男女別に押し寄せる変革の波!? [メディア・家族・教育等とジェンダー]

子ども向け玩具とジェンダーというのは、古くて新しいというか、なかなか根が深いというか、いわば男女二元的な性別秩序と構造的にガッツリ噛み合った、ジェンダー問題の象徴的な案件のひとつだと言えます。

一般に流布したイメージでも各種のオモチャに対する「女の子向け」「男の子向け」というイメージは強固でしょう。
そのことと一体の慣習として、メーカーの商品開発もまた男女別におこなわれ、流通段階にもそれが引き継がれ、宣伝広報、そして小売店の店頭まで、男児向けおもちゃ、女児向けおもちゃという区分は確固として維持されています。
そして、そのサイクルが循環することで、こうした体制が再生産されていくという自縄自縛も。

しこうして、個々の子どもたちは、各々の初期設定の性別属性を指標にして与えられる別々の玩具をつうじて、異なる社会化をされていくことになりますし、本来はひとりひとりが持っている個性に基づく興味選好に応じた遊びへのアクセスを妨げられることにもなります。
トランスジェンダーのライフストーリーをひもといても、幼少期に性別違和を自覚したきっかけのひとつに、これら玩具の選択をめぐる事案は、多くの人に共通しがちな鉄板のエピソードでありましょう。

ただ、近年では、性的少数者の問題にも関心が高まってきましたし、まずもって性別属性で人を一方的に二分することでひとりひとり多様な子どもたちの可能性を潰すことは良くないという認識も広まってきました。

最近は量販店の売り場を観察しても、事実上は「女児向けおもちゃ」「男児向けおもちゃ」という区分に応じて店舗内のエリアが分かれてはいても、建前としてはそうとはどこにも明示されていないというケースも見受けられます。

あるいは、例えばマクドナルドのハッピーセット。
オマケのオモチャの種類が、これまた実態としては「男の子向け」「女の子向け」のものが同時2種展開なことが定石ではあります。
が、このところはそのテレビCMにおいて、いずれのものについても(当該オモチャで遊ぶ様子を演じるために)登場する子役は男女織り交ぜたつくりになっていて、やはり建前としては「いずれも男女にかかわらず選べますよ」というメッセージは意識されるように変わってきました。

あとは子どもたちの身近にいる大人、親や教師・保育士らの意識がさらに柔軟になっていけば、旧来までの硬直したジェンダー意識も、いっそうの縮退が見込めるのではないでしょうか。

◎タカラトミーが公開している、自社製品「プラレール」の最新PR動画では、実際にプラレールで遊ぶ様子を映していますが、登場する子どもたちは男児に限定されておらず、プラレールは決して男の子限定ではないというメッセージを発しています。

 
◇◇

さて、そんなわけなので、プリキュアシリーズの各作品においてスポンサーが発売する、作中に登場するアイテムを模した玩具の数々も、やはり上記のような構造のもとにあるわけです。

となると、マーケティング上は「女児向け」の位置づけで、小売店では「女の子向けおもちゃ」のエリアに置かれる前提で企画・制作されることとも無縁ではいられません
(バンダイの社内組織も改革され今では事業部が男児向け女児向けと分かれてはいなくなったとはいえ)。

あまつさえ、売り上げを伸ばして事業を維持するためには、実際の最終的な購買決定権を持つ親や祖父母が、たとえ保守的な価値観を持っていたとしても、「おぉ! コレを買い与えればウチの娘/孫娘が将来は良いお嫁さんになるのにふさわしいおしとやかで可愛げのある女の子に育つのに役立つに違いない!!」と思わせて、販路を幅広くキープしなければなりません。

結果、プリキュアの変身アイテムのおもちゃを使ってどんな遊びをするかといえば、それは仮面ライダーや戦隊ヒーローのそれと大して変わらないにもかかわらず、その意匠はずいぶんと「女の子らしい(という社会で共有された通念に適合した)」ものになる……という事情はあるわけですね。

また、特に武器アイテムについては、メーカー側もより慎重になるのかもしれません。
玩具の元となる作中での設定自体、仮面ライダーや戦隊ヒーローのものであれば、そのモチーフとなる現実世界での存在がズバリ剣や銃であることは当然のこととして特に避けられてはいません。
ところがプリキュアシリーズでは、やはり何らかのバイアスが働いてしまうのでしょうか。実在の武器を基にしたようなアイテムはめったにないのですね。

シリーズ各作をふりかえっても、往年の魔法少女ものから受け継いだかの如き「バトン」「ステッキ」様のものは頻出しますし、あとは「タクト」、もしくは楽器系も好まれています
(たまに弓矢の場合があっても「愛のキューピッド」というイクスキューズが付されていたり、いちおうはズバリ剣モチーフでも「フルーレ」という相対的には厳つさが少ないものであったりも)。

まぁ作中では、こうした事情を逆手に取った作劇がおこなわれたことで、「必要なのは剣じゃない」という名セリフも爆誕し、「ケアの倫理で戦うヒーロー・プリキュア」ならではの珠玉の物語も紡がれてきたのではありますが;

§こちらも参考に
 正義の怒りをぶつけろガンダム!? からの「必要なのは剣じゃない」
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2019-04-27_Gundam40J

§そして『デリシャスパーティ プリキュア』
 デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-03-02_DpPr-Mary


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 ※画像は公式サイト・放送画面ほか公式の媒体よりキャプチャして引用しているものです。以下の画像も同様

で、そんなこんなで、本年度の『デリシャスパーティ プリキュア』において、最初に(ありていに言って5月の連休商戦で玩具を売り出すためのタイミングで)スポンサーから支給(!?)されたパワーアップ新アイテム「ハートジューシーミキサー」についても、モチーフはその名のとおりジューサーミキサーで、デザインもすこぶるファンシーさを前面に出したものとなっています。
そう、これならたとえ祖父母のジェンダー観が相応に因習的であったとしても、帰省してきた孫に買ってあげるに躊躇はされず、やすやすと財布の紐を締めてもらえる!

ただ………

作中での使用方法は、ガチで銃!!

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完全に銃!

誰だよ「ハート銃シーミキサー」なんて言ってるのはw

ということで、今しばらくは番組としての商業的な要請と、作品として何をどう描いていくべきか……のせめぎあいは続いていくであろう時代環境の中で、このあたりも、『デリシャスパーティ プリキュア』が一歩踏み込んで攻めた姿勢で作品の描写をおこなった要素のひとつと言えるかもしれませんね。

※言うまでもないですが、フィクションにおける銃モチーフのアイテムやソレの玩具で遊ぶことと現実の銃をめぐる問題は文字どおり次元が違う案件であり、分けて考える必要があるでしょう。
特にプリキュアシリーズの作中ではでは、こうしたアイテムを用いながら発動する最終的な決め技は、物理的な殺傷力を持つものではなく、敵モンスターを生成している闇のエネルギーを除去する(ある種の「魔法」的な)効果を有した《浄化技》であるという設定が通例となっています。


◎「ケアの倫理」に限らず、フィクションにおける戦いの場にリアルな戦いにはありえないような「カワイイ」表象が持ち込まれることの意義もまた、一度しっかり検証され正当に評価されるべきでしょう。
プリキュアの姿形のデザインがフリルやリボン満載で「バトル」にはおよそ不向きだ……というツッコミはたまにあるネタですが(そんなミニスカートじゃ、むしろ変身前よりも防御力が下がってるだろう……みたいなのも、すでにセーラームーンの時代からありました)、これも真面目に捉え直すなら、女性が戦いの場に参画する際の男装する必要をなくして見せた・女の子が女の子としてそのまま戦えるようになった、と、フェミニズムが評価すべき事象のひとつだとも言えてきます。

◎男女別マーケティングが根強いという商業的な事情に左右されない稀なケースを見れば、例えば先に人気が爆発的に広がり後から関連商品が企画された『鬼滅の刃』などなら、男女別が厳格ではない商品展開になっていたりもします。


あと、もうひとつ、この2022年の注目すべき事象として、『リズスタ』があります。

『リズスタ』は、5年にわたって「実写版プリキュア」として人気を博した『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』から『ビッ友×戦士 キラメキパワーズ!』に至る「ガールズ戦士シリーズ」が一旦終了した後を受けて登場したもので、簡単に言えば「ダンスに特化したアイカツ」のような内容です。

なので、マーケティング的には「女の子向け」の番組であり、タカラトミーから発売される関連玩具も、小売店では女児向け商品のエリアに配置されてはいます。
だいたいプリキュアのコーナの隣で覇権を競っているというのが実相ですね。

 → 『リズスタ』公式サイト
  https://rizsta.jp/

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したがいまして、この「リズスタブレス」や「リズスタライト」、見てのとおり、なかなかの魔女っ子アイテムに他なりません。

他ならない、の、ですが、なのですが、しかし!!

なんと、これらのアイテム、なんと作中では、これらがまるっきり完全に男女兼用のものだという世界観で運用されているのですね。

え? べつに女子限定なんてこと、ナイですよ!

と、ばかりに、作中では男性登場人物らによって、こともなげに使用されている様子が再三登場します。

これもまた、効果的な攻め方の意義ある設定ではないでしょうか。
願わくはこの「こういうのが好きなら性別にカンケイなく選んでイイんだよ」というメッセージが幅広く届いてほしいところです。

『リズスタ』作中では、そうした世界設定を受けてというのもあるのでしょう、主人公らメインメンバーによるユニットの男女比が(あえて男女二元的に言えば、ですが)、当初が「女2:男1」、追加メンバー加入後は「女3:男2」と、いわゆる戦隊ヒーローの男女比のスタンダードの逆パターンになっています。

こういうところにも作品の斬新なコンセプトが現れていると言えますし、そがゆえにストーリーも殊更に「女の子向けっぽい」ところへ陥ることもありません。
引き続き見守っていきたいところです。

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てなわけで、この2022年、旧来から続いてきているおもちゃの男女別、およびそれと密接に結びついているテレビの子ども番組の内容に、押し寄せている変革の波が、なかなかオモシロイ形で見えてきています。
この波に、乗らないという手はありませんノ


  

  

◇◇

(2023/07/09)
さて、2023年度のプリキュアシリーズは『ひろがるスカイ!プリキュア』となっており、これについてはコチラ「可能性ひろがるスカイ!プリキュア男子レギュラー登場」にてすでに少し述べています。
その変身アイテム「スカイミラージュ」の玩具は、LEDバーサライトの回転機構を活かしたものとなっており、作中での変身シーンのエフェクトも玩具と対応した演出になっています。
で、この「LEDバーサライトの回転機構を活かした玩具のエフェクト・作中変身シーンの演出」、なんと今年度のウルトラマンシリーズ『ウルトラマンブレーザー』と丸カブりなんですよ!
変身アイテム本体にパーツをセットすることで「変身」が発動する仕掛けが共通しているなんていう点は今に始まったことではないですが、今般は特に、回転する光の醸し出す絵面が、マジ「……いっしょやん!」なんですね。
まぁ身も蓋もないことを言うなら、これは玩具の製造発売元であるバンダイが部品となるバーサライトLEDモジュールを両製品間で共用してコストダウンを目論んでいるということになるのでしょう。
いゃ、ソレはよいのです。むしろ営利企業が合理化でコストダウンを図るのは当然です。しかしその際にパーツの共通化が図られるのがプリキュアとウルトラマンの玩具の間なのだとしたら、それはひとつ、メーカー側の意識の中では[これは男児向け・こちらは女児向け]といった観念が相当に希薄になってきていることの現れだと言うこともできてきましょう。
バンダイでは数年前に社内組織の改変が実施され、事業部の男児向けトイ・女児向けトイといった分かれ方は過去のものとなっています。それもまたパーツの共通化をプリキュアとウルトラマンの間でおこなうハードルを下げているだろうことは想像に難くありません。しかして今般のような事例は、今後も増えこそすれ減りはしないと思われます。
メーカー側がこうしたスタンスで来る以上、顧客の側もまた、玩具をめぐる「男女別」の因習から意識的に距離を取っていく必要が、ますます高まってきているのではないでしょうか。

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オニシスター鬼頭はるか「戦隊ヒロイン」としての新機軸ぶりが鬼ヤバい [メディア・家族・教育等とジェンダー]

今年度のプリキュアシリーズ『デリシャスパーティ プリキュア』が、ここへ来てのさらなる新機軸が満載で、なかなか画期的だという話は先日まとめました。

 → デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-03-02_DpPr-Mary


さて一方、戦隊シリーズのほうは昨今どうなっているのでしょうか。

かつて指摘されていたような、チームヒーローにおける紅一点問題については、時代の進展とともにさまざまな工夫がおこなわれ、近年ではいちじるしく改革が進んでいると言ってよいでしょう。

昭和の昔にはありがちだった、立ち位置は「職場の花」的な扱い、もしくは「お色気担当」、場合によってはセクハラも受ける、あるいは男性主人公の恋愛相手という存在意義、そして主たる任務としてあてがわれるのはヒーローの物語からは一段後景にある補助・ケア労働で、あくまでも男性ホモソーシャル構造における周縁化された役割でしかない……、そういういかにもな描写はすでに影を潜めて久しいです。

女性メンバーがチームのリーダーである戦隊も複数の前例がありますし、存在役割が男性メンバーと対等な設定も積み重ねられてきました。

女性メンバーが2人の戦隊が登場して以降は、その2人の関係性の掘り下げ描写(ありていに言って「百合」)も定石となり、さしづめ《戦隊内「ふたりはプリキュア」》な様相を呈する展開さえ増えています。

女性メンバーを「戦隊ヒロイン」と呼ぶ習慣も便宜的にはまだ残っていなくはないですが、もはや近年ではそういう概念が妥当しないほど、女性メンバーは戦隊ヒーローの中で他の男性メンバーと同等に活躍し、キャラとしての独自性をチーム内で発揮し、その主体性を存分に体現しているわけです。

女性であるがゆえに、男性のための物語の中で都合良く処遇されている……といったのような批判が的を射ていた時代も、今は昔と言えるようになってきたわけです
(むろん「番組」としての周辺の環境には、例えば「戦隊ヒロイン女優」の水着グラビアを男性誌の表紙に掲載するような、ある種の旧習が未だに残っていなくもないですが)。

※[補助]業務としては通信士や後方支援任務などが「あるある」でしょう。[ケア]役割は負傷者の看護や「お茶汲み」など、あるいは男性主人公がメンタル面で落ち込んだときの叱咤激励などの「心のケア」も含んでよいでしょう。

※戦隊シリーズでは[レッド]が常にメインの立ち位置にはいますが、「リーダー」が誰かとなると戦隊によってまちまちで一概には言えません。昨今のアイドル用語を援用するなら、[レッド]は常に「センター」ですが「リーダー」とは限らない……わけです。

※字義的には「ヒロイン」とは単にヒーローの女性形の語ではありますが、現実としては物語の紅一点として上述したような「女性役割」を果たす登場人物という意味で用いられることが多く、各種のジェンダーバイアスが紐づいた言い回しでありましょう。

※その他、往年の紅一点描写と、そこからの変遷の様子については、以下の記事なども参考にしてください。

 → ウルトラQはウルトラマンよりも新しい!
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2016-07-03_QthanMan

 → [1:男の子プリキュアへの中間回答]女の子は誰でもプリキュアになれるのか?
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2017-09-21_everyonePrecure01

 → [3:戦隊ヒーローの先見と仮面ライダーの転身]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2014-05-03_PC3-rider_ranger


※また、いわゆる紅一点についての論議の起点としては、やはり往年の話題書である斎藤美奈子『紅一点論』が、今なお押さえておくべき基本であるでしょう。

 


で、そんな戦隊シリーズの今年度作品、それが『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』なのですが、その「紅一点」相当キャラ・「戦隊ヒロイン」にかかわる描写が、これまた非常に斬新で、その新機軸の満載ぶりからは、やはり時代がさらに一歩進んだ感がすこぶる強力に窺えます。

 → 「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」東映オフィシャルサイト
  https://www.toei.co.jp/tv/donbrothers/index.html

 → テレビ朝日「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」公式サイト
  https://www.tv-asahi.co.jp/donbro/


「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」での女性メンバーは、色はイエロー、そして「桃太郎」をモチーフにした戦隊の中で、メインのレッドが桃太郎な他は犬・猿・雉と並ぶ中での、なぜか鬼という属性。
名付けて「オニシスター」
(他が「ドン・モモタロウ」「イヌブラザー」「サルブラザー」「キジブラザー」)

なので、オニシスターは人数的にはまさしく紅一点で、女性2人体制の戦隊よりはジェンダー的に後退した設定だと言えなくもありません
(まぁ近年の戦隊はいろいろ変則的な構成も多く、男女比についても単純には語れないのですが…; ちなみに今般はそういうことなので、色がピンクであるキジブラザーは男性ということです。公式戦隊初の男性ピンク爆誕ですね)。

そして、そのオニシスターに変身するのが、その名も「鬼頭はるか」!!
すでに漫画家としてデビューもしている現役女子高校生、という設定です。

実際に制服姿での登場もある現役女子高生という設定は、男性視聴者ウケを狙った「萌え」優先のしつらえではないのか!?
という批判をしたくなる人も少なくはないでしょう。

あと、モチーフの「桃太郎」というのも、ある意味ジェンダー的には鬼門(←文字どおり…!?)なのは、上述のリンク先「桃子ちゃんの鬼退治」にあるとおりです。

しかぁし!!
そうした不安はまったくの杞憂。
蓋を開けてみると、ものすごい、想像の斜め上のキャラが飛び出してきました。

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 §画像はテレビ朝日公式サイトの画面をキャプチャしたもの

否、むしろこの「鬼頭はるか」、キャラとして突飛というよりは、逆に、いかにもそこらへんを歩いていそうな、まさしくどこにでもいそうな10代の女の子なのです。
要は、今どきの女子高校生キャラとして、むちゃくちゃリアル。
そのうえで、そんな女子高校生像が、ものすごく今風の「令和クォリティ」になっているのです。

なので、一歩引いて男性を立てるみたいな発想は微塵もない。
それどころか、男性メンバーの各種の言動に対して積極的に鋭いツッコミを入れる役回り。
あまつさえ、男性メンバーのちょっとした奇行に接しては、「ぅわっキモっ(気持ち悪い)!」と、心底イヤそうな表情を見せる。
そこには自分を「女の子らしくカワイク」見せなければ(以て男性陣から良く思われよう)というような囚われは皆無です。

したがって、男性メンバーからの恋愛対象という作劇上の役割も免除されていると見てよいでしょう。
逆に男性メンバー各々に対する関係性の構築(自体は物語の展開とともにいろいろ進んでいはするのですが)が単純にありきたりな恋愛感情に回収されることもなさそうです。

表情については他にも豊かで、さまざまなシチュエーションに対峙した際のリアクションとしての「変顔」のバリエーションも数多あります。
それらがいずれも一般的な通念に照らして「可愛い女の子」という範疇には収まらない、収まる必要はないという演出になっています。
果ては、そうした「可愛い女の子」っぽさを全面に出したキャラ付けの人物のゲスト登場回では、そのいかにもな「ブリっ子」ぶりに苛立ちを見せる一幕も。

しかしそれでいて、既存のジェンダー秩序の都合のいいところは上手いこと利用してやろうというちゃっかりした抜け目なさも持ち合わせています。
いつか「白馬の王子様」が迎えに来るようなことがあるなら、それはそれで美味しいかなと考えていたり、あるいは男性を喜ばせるという企図を達成するならば手焼きのクッキーを持っていくといいだろうと画策するなど。

一方「鬼頭はるか」は自己肯定感も高く描かれています。

自らの漫画家としての才能には確たる自信を持っていますし、謎の盗作疑惑に対しては、断固として不当なものと自認。
いかに汚名を返上して新作を世間に認めさせるか、今後のキャリアデザインも構想は描いているようです。

盗作事件までは学校でクラスメートらからちやほやされることを当然のこととして、その地位に胡座をかいていたフシがあるのも含めて、良くも悪くも自己評価は高い。
あえて言えば少々尊大で自惚れている。
自作漫画が賞を取ったときの授賞式での記者からの質問に対しても、帰りのタクシーの中で「つまらない質問ばっかしやがって」みたいに愚痴るところなどもその一端ですね。

それでいて授賞式の壇上では若くしてデビュー作が認められたことに対して「身に余る光栄です」などと適切な社交辞令をキチンと述べるという、なかなかの大人のふるまいを心得た側面も。

つまるところ、「男の子向けヒーローものに登場する女性戦士なんだからこんな感じでイイだろう」とか「息子といっしょに視聴するお父さんにウケる女性像の女の子ってったらこうでしょう」みたいな安易な発想・因習的なテンプレには与せずに、きっちりと等身大の10代の女性の「今」を多面的にキャラに落とし込んであるわけですね。

もしも、一昔前には卓越的だったかもしれない「女の子は少しバカなほうがカワイイ」「ドジでおっちょこちょいなのが愛嬌」的な価値基準に則るなら、「鬼頭はるかは明るく元気なの(だけ)が取り柄の高校3年生!」なんていうあたりが鉄板となるわけですし、現にほんの20年前あたりならソレがまだ定番だったのではないでしょうか。

そうして、そんな方向性とは 202度くらい異なる設定がOKになったのが、この令和4年なのだということになります。

もちろん鬼頭はるか、上述した自己肯定感の高さの裏返しであるちょっと尊大なところもある反面、他人を思いやる気持ちも多々持ち合わせており、人情の機微にも長けていたりします。
なので困っている人を見ると、わりと放っておけないタチだったりも。

それゆえ、敵の襲撃で一般市民が危険にさらされているような際には、率先して変身し、人々を守ろうとしたりもしています。
そういう「ヒーローとしての自覚」は、いわばドンブラザーズのメンバーの中では最もしっかりしているようにさえ見受けられます。

当然に、ヒーローとしての資質、敵との戦闘の能力が男性メンバーよりも劣るような描写にはなりません。
バトルシーンでは性差は特に問題にならずに、全員が同等に個性を活かして活躍しています
(ドンブラザーズに限らず、ソレは今に始まったことではないのですが)。

もはや、この時代の戦隊ヒーロー、女だから・男だからという見方はあまり意味はない、そういう域に達していると言っていいのかもしれません。

そういえば第1話で、鬼頭はるかが突然オニシスターに変身することになってしまい敵との戦闘に巻き込まれた際、状況に戸惑いはしても、尻込みしたりはせずに、変身の効果で防御力や身体能力が向上しているのを確認しながら、初めてのバトルをわりと器用にこなしてもいました。

「いつ もし本当にプリキュアになっても大丈夫な心構えは 常日頃からできている」(!?)というのも、ある意味この2020年代の女子高校生としてのリアルであるかもしれません。

そして、第1話のあれはじつは視聴者にとっては、なんと主人公が変身するメインヒーローであるレッドのドン・モモタロウを差し置いて、作中でいちばん最初にドンブラザーズのメンバーの変身~バトルが描かれた場面なのですね。

物語全体も鬼頭はるか視点で進んでいると解せるところがあり、その意味では『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主人公は「鬼頭はるか」というのもあながち極論ではなかったりします。

作中で最初に変身するのが「女性」、物語が「ヒロイン」目線で進行、これは男児向けというマーケティングで制作される番組としては、いささか思い切った試みに思えます。

まぁ『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』は、全体としていろいろ変則的な構成にはなっているので(視聴者に対してあまり状況設定の説明がなく有耶無耶のうちにストーリーが進行していて、それでもオモシロイから引き込まれてしまうという荒業が成功しているのですが、なんと作中の登場人物たちにとっても状況はよくわからないまま話が進んでいて、今後どのようなどんでん返しがあるかも読みきれない; ※本記事は第19話までが放送済みの段階で記述しています)一概には言えないですが、それでも、このあたりのことが企画会議でOKを取れるというのは、時代の進展の賜物でしょう。

実際にオンエアを経ても、視聴者の男の子たちのボリュームゾーンからの反発などはなかったということでよいのでしょうか。

今なお幼い子どもにあっても、ある程度はジェンダーバイアスを刷り込まれてしまうことが避け難い中で、それでも子どもたちの認識の中で、「男女」をめぐる態度が柔軟になってきているのならば良い変化です。
戦隊シリーズ(をはじめとする男児向けマーケティングで制作されるヒーローもの)とプリキュアシリーズの内容が近接・交錯してきている昨今の情勢とも呼応しているのかもしれません。

なお、メインターゲットよりは上の年代の特撮ファンのSNSなどでの反応を見た限りでは、そうした層にオニシスター・鬼頭はるかは好意的に受け入れられており、ファンアートなども多数。
今日の若い特撮ファンにとっては、やはりこのような「ヒロイン」こそが魅力的になってきていると捉えられそうです。いわば、一昔前の基準に照らせばあまりカワイクないヒロイン像ゆえに「可愛い」。
そういう変化は、もっと肯定していかねばならないでしょう。

そんなこんなで、今般の「戦隊ヒロインとしての新機軸・鬼頭はるか」、今日の「戦隊ヒロイン」に求められる「自立した女性」像を的確に体現し、現役女子高生という設定をも上手いこと活用しながら、今どきの10代女性のリアルを印象的に描き出すことに成功したと言えるのではないでしょうか。

ちなみに鬼頭はるか役を演じている俳優は「志田こはく」さん。

2022年の誕生日をもって18歳となる2004年生まれとのことで、公式プロフィールには明言されていないものの、年齢的には今まさに役柄と同様に現役女子高校生ではないかと思われます。

そして2004年といえばプリキュアシリーズの放送が始まった年。つまるところ志田こはくさん、完全なるプリキュアネイティブです。

戦隊ヒーローものに出演するにあたって、かように「ヒロイン」ポジションとしては新機軸なキャラ付けの役柄を、きわめてナチュラルに演じられるというのも、この「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」ならではの感性の賜物なのかもしれません
(実際にインタビューで、小さい頃にはプリキュアを視聴していたと語っていたりもする ※「初々しい戦隊ヒーロー美少女:志田こはく/シネマトゥデイ https://www.cinematoday.jp/page/A0008303 」)。

そういえば、『デリシャスパーティ プリキュア』で筆頭プリキュアであるキュアプレシャスに変身するメイン主人公「和実ゆい」役の声優である菱川花菜さんも2003年生まれとのことなので、ほぼ同世代。

この2人が同時期に「ものすごく新機軸!」で共通するというのも、その意味ではもはや必然的でしょう。
やはり侮れない「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」。

おそらくは、こうしたプリキュアネイティブ世代が、この先ますます社会の中核を担うようになれば、現行社会に蔓延る古き悪しきコンベンショナリティも、もっと刷新されていくのではないでしょうか。


  


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