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おもちゃの男女別に押し寄せる変革の波!? [メディア・家族・教育等とジェンダー]

子ども向け玩具とジェンダーというのは、古くて新しいというか、なかなか根が深いというか、いわば男女二元的な性別秩序と構造的にガッツリ噛み合った、ジェンダー問題の象徴的な案件のひとつだと言えます。

一般に流布したイメージでも各種のオモチャに対する「女の子向け」「男の子向け」というイメージは強固でしょう。
そのことと一体の慣習として、メーカーの商品開発もまた男女別におこなわれ、流通段階にもそれが引き継がれ、宣伝広報、そして小売店の店頭まで、男児向けおもちゃ、女児向けおもちゃという区分は確固として維持されています。
そして、そのサイクルが循環することで、こうした体制が再生産されていくという自縄自縛も。

しこうして、個々の子どもたちは、各々の初期設定の性別属性を指標にして与えられる別々の玩具をつうじて、異なる社会化をされていくことになりますし、本来はひとりひとりが持っている個性に基づく興味選好に応じた遊びへのアクセスを妨げられることにもなります。
トランスジェンダーのライフストーリーをひもといても、幼少期に性別違和を自覚したきっかけのひとつに、これら玩具の選択をめぐる事案は、多くの人に共通しがちな鉄板のエピソードでありましょう。

ただ、近年では、性的少数者の問題にも関心が高まってきましたし、まずもって性別属性で人を一方的に二分することでひとりひとり多様な子どもたちの可能性を潰すことは良くないという認識も広まってきました。

最近は量販店の売り場を観察しても、事実上は「女児向けおもちゃ」「男児向けおもちゃ」という区分に応じて店舗内のエリアが分かれてはいても、建前としてはそうとはどこにも明示されていないというケースも見受けられます。

あるいは、例えばマクドナルドのハッピーセット。
オマケのオモチャの種類が、これまた実態としては「男の子向け」「女の子向け」のものが同時2種展開なことが定石ではあります。
が、このところはそのテレビCMにおいて、いずれのものについても(当該オモチャで遊ぶ様子を演じるために)登場する子役は男女織り交ぜたつくりになっていて、やはり建前としては「いずれも男女にかかわらず選べますよ」というメッセージは意識されるように変わってきました。

あとは子どもたちの身近にいる大人、親や教師・保育士らの意識がさらに柔軟になっていけば、旧来までの硬直したジェンダー意識も、いっそうの縮退が見込めるのではないでしょうか。

◎タカラトミーが公開している、自社製品「プラレール」の最新PR動画では、実際にプラレールで遊ぶ様子を映していますが、登場する子どもたちは男児に限定されておらず、プラレールは決して男の子限定ではないというメッセージを発しています。

 
◇◇

さて、そんなわけなので、プリキュアシリーズの各作品においてスポンサーが発売する、作中に登場するアイテムを模した玩具の数々も、やはり上記のような構造のもとにあるわけです。

となると、マーケティング上は「女児向け」の位置づけで、小売店では「女の子向けおもちゃ」のエリアに置かれる前提で企画・制作されることとも無縁ではいられません
(バンダイの社内組織も改革され今では事業部が男児向け女児向けと分かれてはいなくなったとはいえ)。

あまつさえ、売り上げを伸ばして事業を維持するためには、実際の最終的な購買決定権を持つ親や祖父母が、たとえ保守的な価値観を持っていたとしても、「おぉ! コレを買い与えればウチの娘/孫娘が将来は良いお嫁さんになるのにふさわしいおしとやかで可愛げのある女の子に育つのに役立つに違いない!!」と思わせて、販路を幅広くキープしなければなりません。

結果、プリキュアの変身アイテムのおもちゃを使ってどんな遊びをするかといえば、それは仮面ライダーや戦隊ヒーローのそれと大して変わらないにもかかわらず、その意匠はずいぶんと「女の子らしい(という社会で共有された通念に適合した)」ものになる……という事情はあるわけですね。

また、特に武器アイテムについては、メーカー側もより慎重になるのかもしれません。
玩具の元となる作中での設定自体、仮面ライダーや戦隊ヒーローのものであれば、そのモチーフとなる現実世界での存在がズバリ剣や銃であることは当然のこととして特に避けられてはいません。
ところがプリキュアシリーズでは、やはり何らかのバイアスが働いてしまうのでしょうか。実在の武器を基にしたようなアイテムはめったにないのですね。

シリーズ各作をふりかえっても、往年の魔法少女ものから受け継いだかの如き「バトン」「ステッキ」様のものは頻出しますし、あとは「タクト」、もしくは楽器系も好まれています
(たまに弓矢の場合があっても「愛のキューピッド」というイクスキューズが付されていたり、いちおうはズバリ剣モチーフでも「フルーレ」という相対的には厳つさが少ないものであったりも)。

まぁ作中では、こうした事情を逆手に取った作劇がおこなわれたことで、「必要なのは剣じゃない」という名セリフも爆誕し、「ケアの倫理で戦うヒーロー・プリキュア」ならではの珠玉の物語も紡がれてきたのではありますが;

§こちらも参考に
 正義の怒りをぶつけろガンダム!? からの「必要なのは剣じゃない」
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2019-04-27_Gundam40J

§そして『デリシャスパーティ プリキュア』
 デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-03-02_DpPr-Mary


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 ※画像は公式サイト・放送画面ほか公式の媒体よりキャプチャして引用しているものです。以下の画像も同様

で、そんなこんなで、本年度の『デリシャスパーティ プリキュア』において、最初に(ありていに言って5月の連休商戦で玩具を売り出すためのタイミングで)スポンサーから支給(!?)されたパワーアップ新アイテム「ハートジューシーミキサー」についても、モチーフはその名のとおりジューサーミキサーで、デザインもすこぶるファンシーさを前面に出したものとなっています。
そう、これならたとえ祖父母のジェンダー観が相応に因習的であったとしても、帰省してきた孫に買ってあげるに躊躇はされず、やすやすと財布の紐を締めてもらえる!

ただ………

作中での使用方法は、ガチで銃!!

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完全に銃!

誰だよ「ハート銃シーミキサー」なんて言ってるのはw

ということで、今しばらくは番組としての商業的な要請と、作品として何をどう描いていくべきか……のせめぎあいは続いていくであろう時代環境の中で、このあたりも、『デリシャスパーティ プリキュア』が一歩踏み込んで攻めた姿勢で作品の描写をおこなった要素のひとつと言えるかもしれませんね。

※言うまでもないですが、フィクションにおける銃モチーフのアイテムやソレの玩具で遊ぶことと現実の銃をめぐる問題は文字どおり次元が違う案件であり、分けて考える必要があるでしょう。
特にプリキュアシリーズの作中ではでは、こうしたアイテムを用いながら発動する最終的な決め技は、物理的な殺傷力を持つものではなく、敵モンスターを生成している闇のエネルギーを除去する(ある種の「魔法」的な)効果を有した《浄化技》であるという設定が通例となっています。


◎「ケアの倫理」に限らず、フィクションにおける戦いの場にリアルな戦いにはありえないような「カワイイ」表象が持ち込まれることの意義もまた、一度しっかり検証され正当に評価されるべきでしょう。
プリキュアの姿形のデザインがフリルやリボン満載で「バトル」にはおよそ不向きだ……というツッコミはたまにあるネタですが(そんなミニスカートじゃ、むしろ変身前よりも防御力が下がってるだろう……みたいなのも、すでにセーラームーンの時代からありました)、これも真面目に捉え直すなら、女性が戦いの場に参画する際の男装する必要をなくして見せた・女の子が女の子としてそのまま戦えるようになった、と、フェミニズムが評価すべき事象のひとつだとも言えてきます。

◎男女別マーケティングが根強いという商業的な事情に左右されない稀なケースを見れば、例えば先に人気が爆発的に広がり後から関連商品が企画された『鬼滅の刃』などなら、男女別が厳格ではない商品展開になっていたりもします。


あと、もうひとつ、この2022年の注目すべき事象として、『リズスタ』があります。

『リズスタ』は、5年にわたって「実写版プリキュア」として人気を博した『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』から『ビッ友×戦士 キラメキパワーズ!』に至る「ガールズ戦士シリーズ」が一旦終了した後を受けて登場したもので、簡単に言えば「ダンスに特化したアイカツ」のような内容です。

なので、マーケティング的には「女の子向け」の番組であり、タカラトミーから発売される関連玩具も、小売店では女児向け商品のエリアに配置されてはいます。
だいたいプリキュアのコーナの隣で覇権を競っているというのが実相ですね。

 → 『リズスタ』公式サイト
  https://rizsta.jp/

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したがいまして、この「リズスタブレス」や「リズスタライト」、見てのとおり、なかなかの魔女っ子アイテムに他なりません。

他ならない、の、ですが、なのですが、しかし!!

なんと、これらのアイテム、なんと作中では、これらがまるっきり完全に男女兼用のものだという世界観で運用されているのですね。

え? べつに女子限定なんてこと、ナイですよ!

と、ばかりに、作中では男性登場人物らによって、こともなげに使用されている様子が再三登場します。

これもまた、効果的な攻め方の意義ある設定ではないでしょうか。
願わくはこの「こういうのが好きなら性別にカンケイなく選んでイイんだよ」というメッセージが幅広く届いてほしいところです。

『リズスタ』作中では、そうした世界設定を受けてというのもあるのでしょう、主人公らメインメンバーによるユニットの男女比が(あえて男女二元的に言えば、ですが)、当初が「女2:男1」、追加メンバー加入後は「女3:男2」と、いわゆる戦隊ヒーローの男女比のスタンダードの逆パターンになっています。

こういうところにも作品の斬新なコンセプトが現れていると言えますし、そがゆえにストーリーも殊更に「女の子向けっぽい」ところへ陥ることもありません。
引き続き見守っていきたいところです。

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てなわけで、この2022年、旧来から続いてきているおもちゃの男女別、およびそれと密接に結びついているテレビの子ども番組の内容に、押し寄せている変革の波が、なかなかオモシロイ形で見えてきています。
この波に、乗らないという手はありませんノ


  

  

◇◇

(2023/07/09)
さて、2023年度のプリキュアシリーズは『ひろがるスカイ!プリキュア』となっており、これについてはコチラ「可能性ひろがるスカイ!プリキュア男子レギュラー登場」にてすでに少し述べています。
その変身アイテム「スカイミラージュ」の玩具は、LEDバーサライトの回転機構を活かしたものとなっており、作中での変身シーンのエフェクトも玩具と対応した演出になっています。
で、この「LEDバーサライトの回転機構を活かした玩具のエフェクト・作中変身シーンの演出」、なんと今年度のウルトラマンシリーズ『ウルトラマンブレーザー』と丸カブりなんですよ!
変身アイテム本体にパーツをセットすることで「変身」が発動する仕掛けが共通しているなんていう点は今に始まったことではないですが、今般は特に、回転する光の醸し出す絵面が、マジ「……いっしょやん!」なんですね。
まぁ身も蓋もないことを言うなら、これは玩具の製造発売元であるバンダイが部品となるバーサライトLEDモジュールを両製品間で共用してコストダウンを目論んでいるということになるのでしょう。
いゃ、ソレはよいのです。むしろ営利企業が合理化でコストダウンを図るのは当然です。しかしその際にパーツの共通化が図られるのがプリキュアとウルトラマンの玩具の間なのだとしたら、それはひとつ、メーカー側の意識の中では[これは男児向け・こちらは女児向け]といった観念が相当に希薄になってきていることの現れだと言うこともできてきましょう。
バンダイでは数年前に社内組織の改変が実施され、事業部の男児向けトイ・女児向けトイといった分かれ方は過去のものとなっています。それもまたパーツの共通化をプリキュアとウルトラマンの間でおこなうハードルを下げているだろうことは想像に難くありません。しかして今般のような事例は、今後も増えこそすれ減りはしないと思われます。
メーカー側がこうしたスタンスで来る以上、顧客の側もまた、玩具をめぐる「男女別」の因習から意識的に距離を取っていく必要が、ますます高まってきているのではないでしょうか。

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◇◇



共通テーマ:アニメ

オニシスター鬼頭はるか「戦隊ヒロイン」としての新機軸ぶりが鬼ヤバい [メディア・家族・教育等とジェンダー]

今年度のプリキュアシリーズ『デリシャスパーティ プリキュア』が、ここへ来てのさらなる新機軸が満載で、なかなか画期的だという話は先日まとめました。

 → デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-03-02_DpPr-Mary


さて一方、戦隊シリーズのほうは昨今どうなっているのでしょうか。

かつて指摘されていたような、チームヒーローにおける紅一点問題については、時代の進展とともにさまざまな工夫がおこなわれ、近年ではいちじるしく改革が進んでいると言ってよいでしょう。

昭和の昔にはありがちだった、立ち位置は「職場の花」的な扱い、もしくは「お色気担当」、場合によってはセクハラも受ける、あるいは男性主人公の恋愛相手という存在意義、そして主たる任務としてあてがわれるのはヒーローの物語からは一段後景にある補助・ケア労働で、あくまでも男性ホモソーシャル構造における周縁化された役割でしかない……、そういういかにもな描写はすでに影を潜めて久しいです。

女性メンバーがチームのリーダーである戦隊も複数の前例がありますし、存在役割が男性メンバーと対等な設定も積み重ねられてきました。

女性メンバーが2人の戦隊が登場して以降は、その2人の関係性の掘り下げ描写(ありていに言って「百合」)も定石となり、さしづめ《戦隊内「ふたりはプリキュア」》な様相を呈する展開さえ増えています。

女性メンバーを「戦隊ヒロイン」と呼ぶ習慣も便宜的にはまだ残っていなくはないですが、もはや近年ではそういう概念が妥当しないほど、女性メンバーは戦隊ヒーローの中で他の男性メンバーと同等に活躍し、キャラとしての独自性をチーム内で発揮し、その主体性を存分に体現しているわけです。

女性であるがゆえに、男性のための物語の中で都合良く処遇されている……といったのような批判が的を射ていた時代も、今は昔と言えるようになってきたわけです
(むろん「番組」としての周辺の環境には、例えば「戦隊ヒロイン女優」の水着グラビアを男性誌の表紙に掲載するような、ある種の旧習が未だに残っていなくもないですが)。

※[補助]業務としては通信士や後方支援任務などが「あるある」でしょう。[ケア]役割は負傷者の看護や「お茶汲み」など、あるいは男性主人公がメンタル面で落ち込んだときの叱咤激励などの「心のケア」も含んでよいでしょう。

※戦隊シリーズでは[レッド]が常にメインの立ち位置にはいますが、「リーダー」が誰かとなると戦隊によってまちまちで一概には言えません。昨今のアイドル用語を援用するなら、[レッド]は常に「センター」ですが「リーダー」とは限らない……わけです。

※字義的には「ヒロイン」とは単にヒーローの女性形の語ではありますが、現実としては物語の紅一点として上述したような「女性役割」を果たす登場人物という意味で用いられることが多く、各種のジェンダーバイアスが紐づいた言い回しでありましょう。

※その他、往年の紅一点描写と、そこからの変遷の様子については、以下の記事なども参考にしてください。

 → ウルトラQはウルトラマンよりも新しい!
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2016-07-03_QthanMan

 → [1:男の子プリキュアへの中間回答]女の子は誰でもプリキュアになれるのか?
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2017-09-21_everyonePrecure01

 → [3:戦隊ヒーローの先見と仮面ライダーの転身]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2014-05-03_PC3-rider_ranger


※また、いわゆる紅一点についての論議の起点としては、やはり往年の話題書である斎藤美奈子『紅一点論』が、今なお押さえておくべき基本であるでしょう。

 


で、そんな戦隊シリーズの今年度作品、それが『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』なのですが、その「紅一点」相当キャラ・「戦隊ヒロイン」にかかわる描写が、これまた非常に斬新で、その新機軸の満載ぶりからは、やはり時代がさらに一歩進んだ感がすこぶる強力に窺えます。

 → 「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」東映オフィシャルサイト
  https://www.toei.co.jp/tv/donbrothers/index.html

 → テレビ朝日「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」公式サイト
  https://www.tv-asahi.co.jp/donbro/


「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」での女性メンバーは、色はイエロー、そして「桃太郎」をモチーフにした戦隊の中で、メインのレッドが桃太郎な他は犬・猿・雉と並ぶ中での、なぜか鬼という属性。
名付けて「オニシスター」
(他が「ドン・モモタロウ」「イヌブラザー」「サルブラザー」「キジブラザー」)

なので、オニシスターは人数的にはまさしく紅一点で、女性2人体制の戦隊よりはジェンダー的に後退した設定だと言えなくもありません
(まぁ近年の戦隊はいろいろ変則的な構成も多く、男女比についても単純には語れないのですが…; ちなみに今般はそういうことなので、色がピンクであるキジブラザーは男性ということです。公式戦隊初の男性ピンク爆誕ですね)。

そして、そのオニシスターに変身するのが、その名も「鬼頭はるか」!!
すでに漫画家としてデビューもしている現役女子高校生、という設定です。

実際に制服姿での登場もある現役女子高生という設定は、男性視聴者ウケを狙った「萌え」優先のしつらえではないのか!?
という批判をしたくなる人も少なくはないでしょう。

あと、モチーフの「桃太郎」というのも、ある意味ジェンダー的には鬼門(←文字どおり…!?)なのは、上述のリンク先「桃子ちゃんの鬼退治」にあるとおりです。

しかぁし!!
そうした不安はまったくの杞憂。
蓋を開けてみると、ものすごい、想像の斜め上のキャラが飛び出してきました。

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 §画像はテレビ朝日公式サイトの画面をキャプチャしたもの

否、むしろこの「鬼頭はるか」、キャラとして突飛というよりは、逆に、いかにもそこらへんを歩いていそうな、まさしくどこにでもいそうな10代の女の子なのです。
要は、今どきの女子高校生キャラとして、むちゃくちゃリアル。
そのうえで、そんな女子高校生像が、ものすごく今風の「令和クォリティ」になっているのです。

なので、一歩引いて男性を立てるみたいな発想は微塵もない。
それどころか、男性メンバーの各種の言動に対して積極的に鋭いツッコミを入れる役回り。
あまつさえ、男性メンバーのちょっとした奇行に接しては、「ぅわっキモっ(気持ち悪い)!」と、心底イヤそうな表情を見せる。
そこには自分を「女の子らしくカワイク」見せなければ(以て男性陣から良く思われよう)というような囚われは皆無です。

したがって、男性メンバーからの恋愛対象という作劇上の役割も免除されていると見てよいでしょう。
逆に男性メンバー各々に対する関係性の構築(自体は物語の展開とともにいろいろ進んでいはするのですが)が単純にありきたりな恋愛感情に回収されることもなさそうです。

表情については他にも豊かで、さまざまなシチュエーションに対峙した際のリアクションとしての「変顔」のバリエーションも数多あります。
それらがいずれも一般的な通念に照らして「可愛い女の子」という範疇には収まらない、収まる必要はないという演出になっています。
果ては、そうした「可愛い女の子」っぽさを全面に出したキャラ付けの人物のゲスト登場回では、そのいかにもな「ブリっ子」ぶりに苛立ちを見せる一幕も。

しかしそれでいて、既存のジェンダー秩序の都合のいいところは上手いこと利用してやろうというちゃっかりした抜け目なさも持ち合わせています。
いつか「白馬の王子様」が迎えに来るようなことがあるなら、それはそれで美味しいかなと考えていたり、あるいは男性を喜ばせるという企図を達成するならば手焼きのクッキーを持っていくといいだろうと画策するなど。

一方「鬼頭はるか」は自己肯定感も高く描かれています。

自らの漫画家としての才能には確たる自信を持っていますし、謎の盗作疑惑に対しては、断固として不当なものと自認。
いかに汚名を返上して新作を世間に認めさせるか、今後のキャリアデザインも構想は描いているようです。

盗作事件までは学校でクラスメートらからちやほやされることを当然のこととして、その地位に胡座をかいていたフシがあるのも含めて、良くも悪くも自己評価は高い。
あえて言えば少々尊大で自惚れている。
自作漫画が賞を取ったときの授賞式での記者からの質問に対しても、帰りのタクシーの中で「つまらない質問ばっかしやがって」みたいに愚痴るところなどもその一端ですね。

それでいて授賞式の壇上では若くしてデビュー作が認められたことに対して「身に余る光栄です」などと適切な社交辞令をキチンと述べるという、なかなかの大人のふるまいを心得た側面も。

つまるところ、「男の子向けヒーローものに登場する女性戦士なんだからこんな感じでイイだろう」とか「息子といっしょに視聴するお父さんにウケる女性像の女の子ってったらこうでしょう」みたいな安易な発想・因習的なテンプレには与せずに、きっちりと等身大の10代の女性の「今」を多面的にキャラに落とし込んであるわけですね。

もしも、一昔前には卓越的だったかもしれない「女の子は少しバカなほうがカワイイ」「ドジでおっちょこちょいなのが愛嬌」的な価値基準に則るなら、「鬼頭はるかは明るく元気なの(だけ)が取り柄の高校3年生!」なんていうあたりが鉄板となるわけですし、現にほんの20年前あたりならソレがまだ定番だったのではないでしょうか。

そうして、そんな方向性とは 202度くらい異なる設定がOKになったのが、この令和4年なのだということになります。

もちろん鬼頭はるか、上述した自己肯定感の高さの裏返しであるちょっと尊大なところもある反面、他人を思いやる気持ちも多々持ち合わせており、人情の機微にも長けていたりします。
なので困っている人を見ると、わりと放っておけないタチだったりも。

それゆえ、敵の襲撃で一般市民が危険にさらされているような際には、率先して変身し、人々を守ろうとしたりもしています。
そういう「ヒーローとしての自覚」は、いわばドンブラザーズのメンバーの中では最もしっかりしているようにさえ見受けられます。

当然に、ヒーローとしての資質、敵との戦闘の能力が男性メンバーよりも劣るような描写にはなりません。
バトルシーンでは性差は特に問題にならずに、全員が同等に個性を活かして活躍しています
(ドンブラザーズに限らず、ソレは今に始まったことではないのですが)。

もはや、この時代の戦隊ヒーロー、女だから・男だからという見方はあまり意味はない、そういう域に達していると言っていいのかもしれません。

そういえば第1話で、鬼頭はるかが突然オニシスターに変身することになってしまい敵との戦闘に巻き込まれた際、状況に戸惑いはしても、尻込みしたりはせずに、変身の効果で防御力や身体能力が向上しているのを確認しながら、初めてのバトルをわりと器用にこなしてもいました。

「いつ もし本当にプリキュアになっても大丈夫な心構えは 常日頃からできている」(!?)というのも、ある意味この2020年代の女子高校生としてのリアルであるかもしれません。

そして、第1話のあれはじつは視聴者にとっては、なんと主人公が変身するメインヒーローであるレッドのドン・モモタロウを差し置いて、作中でいちばん最初にドンブラザーズのメンバーの変身~バトルが描かれた場面なのですね。

物語全体も鬼頭はるか視点で進んでいると解せるところがあり、その意味では『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主人公は「鬼頭はるか」というのもあながち極論ではなかったりします。

作中で最初に変身するのが「女性」、物語が「ヒロイン」目線で進行、これは男児向けというマーケティングで制作される番組としては、いささか思い切った試みに思えます。

まぁ『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』は、全体としていろいろ変則的な構成にはなっているので(視聴者に対してあまり状況設定の説明がなく有耶無耶のうちにストーリーが進行していて、それでもオモシロイから引き込まれてしまうという荒業が成功しているのですが、なんと作中の登場人物たちにとっても状況はよくわからないまま話が進んでいて、今後どのようなどんでん返しがあるかも読みきれない; ※本記事は第19話までが放送済みの段階で記述しています)一概には言えないですが、それでも、このあたりのことが企画会議でOKを取れるというのは、時代の進展の賜物でしょう。

実際にオンエアを経ても、視聴者の男の子たちのボリュームゾーンからの反発などはなかったということでよいのでしょうか。

今なお幼い子どもにあっても、ある程度はジェンダーバイアスを刷り込まれてしまうことが避け難い中で、それでも子どもたちの認識の中で、「男女」をめぐる態度が柔軟になってきているのならば良い変化です。
戦隊シリーズ(をはじめとする男児向けマーケティングで制作されるヒーローもの)とプリキュアシリーズの内容が近接・交錯してきている昨今の情勢とも呼応しているのかもしれません。

なお、メインターゲットよりは上の年代の特撮ファンのSNSなどでの反応を見た限りでは、そうした層にオニシスター・鬼頭はるかは好意的に受け入れられており、ファンアートなども多数。
今日の若い特撮ファンにとっては、やはりこのような「ヒロイン」こそが魅力的になってきていると捉えられそうです。いわば、一昔前の基準に照らせばあまりカワイクないヒロイン像ゆえに「可愛い」。
そういう変化は、もっと肯定していかねばならないでしょう。

そんなこんなで、今般の「戦隊ヒロインとしての新機軸・鬼頭はるか」、今日の「戦隊ヒロイン」に求められる「自立した女性」像を的確に体現し、現役女子高生という設定をも上手いこと活用しながら、今どきの10代女性のリアルを印象的に描き出すことに成功したと言えるのではないでしょうか。

ちなみに鬼頭はるか役を演じている俳優は「志田こはく」さん。

2022年の誕生日をもって18歳となる2004年生まれとのことで、公式プロフィールには明言されていないものの、年齢的には今まさに役柄と同様に現役女子高校生ではないかと思われます。

そして2004年といえばプリキュアシリーズの放送が始まった年。つまるところ志田こはくさん、完全なるプリキュアネイティブです。

戦隊ヒーローものに出演するにあたって、かように「ヒロイン」ポジションとしては新機軸なキャラ付けの役柄を、きわめてナチュラルに演じられるというのも、この「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」ならではの感性の賜物なのかもしれません
(実際にインタビューで、小さい頃にはプリキュアを視聴していたと語っていたりもする ※「初々しい戦隊ヒーロー美少女:志田こはく/シネマトゥデイ https://www.cinematoday.jp/page/A0008303 」)。

そういえば、『デリシャスパーティ プリキュア』で筆頭プリキュアであるキュアプレシャスに変身するメイン主人公「和実ゆい」役の声優である菱川花菜さんも2003年生まれとのことなので、ほぼ同世代。

この2人が同時期に「ものすごく新機軸!」で共通するというのも、その意味ではもはや必然的でしょう。
やはり侮れない「息をするようにプリキュアを観て育ってきた世代」。

おそらくは、こうしたプリキュアネイティブ世代が、この先ますます社会の中核を担うようになれば、現行社会に蔓延る古き悪しきコンベンショナリティも、もっと刷新されていくのではないでしょうか。


  


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共通テーマ:アニメ

デリシャスパーティプリキュアのパンチの効いた新機軸 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

さてさて、2021年度のプリキュアシリーズ作品、『トロピカル~ジュ!プリキュア』を総括し、特に注目点だった案件については、前記事と前々記事にまとめた……

  → トロピカル~ジュプリキュアに見る新時代の「人魚の身体感覚」描写
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-02-02_TrPr-NewNingyo

  → トロピカル~ジュプリキュアに見る新時代の「女子の仲たがい」描写
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2022-02-03_TrPr-NewFric
◇◇

……ばかりなのですが、新たにスタートしたシリーズ後継作である『デリシャスパーティ [正式表記はココにハートマーク(以下同様)] プリキュア』、これがこれまた早速ながら(現時点、放送進捗は第5話まで ※当記事日付確定後、本文作成中に第5話までが放映済みに言及しないわけにはいかないポイントが目白押しなのですね。

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 ※デリシャスパーティプリキュア画像は公式のサイトや放送画面から引用要件に留意した上で貼付しています

  → 東映アニメーション「デリシャスパーティ プリキュア」公式サイト
  https://www.toei-anim.co.jp/tv/delicious-party_precure/

  → 朝日放送「デリシャスパーティ プリキュア」公式サイト
  https://www.asahi.co.jp/precure/delicious/
◇◇

基本的には、キャラクターデザインはじめ制作スタッフに新しい人材を迎えていろいろ新機軸が感じられるというのは、まずあります。

ギャグシーンのコミカルさの演出などでも今までのプリキュアシリーズにはあまりなかった技法が用いられていたりして、そのあたりも含めて何かと目新しく、いうなれば一皮むけた印象に事欠かない仕上がりとなっているわけです。

そして。
ソレ以上に、女児向けマーケティングで制作されるコンテンツとして、ある種、良い意味で、一線を越えて踏み込んだ設定、斬新な描写がおこなわれている点も、見逃せないところなのです。

例えばメイン主人公「和実ゆい」が変身するプリキュアである、こちら「キュアプレシャス」。

変身時の決めポーズに、このような力自慢を誇示するようなイメージのものが含まれています。
女の子だって力持ち自慢したい」といったところなのでしょうか。

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そもそも変身前の和実ゆいの状態であっても、(いわゆる異世界「クッキングダム」から使命を帯びて人間界へやってきたところ、人間界の勝手がわからず)行き倒れていたローズマリー氏(後述)をサクっと抱きかかえて運ぶなど、現に相当な力持ちキャラぶりが描かれています。
大人一人を平然と抱きかかえるのって、マジかなりなものですヨ。

それに、困っている誰かを抱っこして運ぶってわけですから、それは役回りとしては「王子様」ではありませんか。
女の子だって王子様になりたい」が、きわめてナチュラルにさりげない水準にまで来ています。
今回は抱きかかえ方が「お姫様抱っこ」でこそありませんでしたけどね
(思えば『Go! プリンセス プリキュア』でキュアフローラがクラスメートの男子を安全な場所まで避難させるべく「お姫様抱っこ」してプリンセスの定義を書き換えていたのももう7年前になるのですねぇ)


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和実ゆいは、基礎的な身体能力も高いようで、スポーツ全般も得意ゆえに、いろいろな体育系部活からの助っ人も頼まれているのですが、その際の報酬は、なんと「おにぎり/おむすび」!

そう。和実ゆいは食いしん坊キャラでもあるのです。
ことあるごとに空腹を訴えては、いろいろな食べ物を、じつに美味しそうに胃袋へ収めていくシーンが描かれます。

『デリシャスパーティ プリキュア』は、「食」をメインテーマとしていて、「ごはんは笑顔」「おいしい笑顔」をアピールしています
(和実ゆい/キュアプレシャスは、そんな中での和食・米飯モチーフを担当する存在なわけです)。
それゆえに、和実ゆいに限らず、そこかしこで誰もが美味しそうに何かを食べる様子が作中では反復されます。

むろん健康に支障が出るような過食はいけないのかもしれませんが、さりとて特に女性ジェンダーの生活者には「痩せ」がやたらと称揚されてきたという経緯もあります。
そんな中での女性主人公らが美味しそうにいろいろなものを食べる様子は、やはり女児向けマーケティング番組内での描写として意義あるものでしょう。
女の子だっていっぱい食べたい」!

しかも和実ゆいのキャラクターデザイン、大食いキャラのステレオタイプの常道からは外れて、ビジュアル的にはあくまでも「女児向けアニメの主人公として王道の、いたって普通の女の子」です。
それはまた、スポーツに秀でているキャラにありがちだった類型的な「ボーイッシュ」っぽさとも距離が置かれているということになりましょう。

この観点でも、和実ゆいのキャラ設定、なかなかの「令和クォリティ」と言えます。


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そうして、このような点を総括的に象徴するのが、和実ゆいが変身するキュアプレシャスが、バトルの際に繰り出すこの技、その名も「500キロカロリーパ~ンチっ」!!

……………は?

500キロカロリーパンチ!?

なんというかかんというか、まるで往年のタツノコプロのアニメのような、ギャグなんだかシリアスなんだかよくわからない、絶妙のバランスのネーミングです。
まぁ、食がテーマのプリキュアなわけですから辻褄は合ってるのですが;

でもって、「500」の数字が腕に浮かび上がったかと思うと、その勢いでそのまま敵モンスターに拳を叩き込むという、その技の実相は、ノリとしてはプリキュアというより、むしろ少年ジャンプに連載されているような異世界格闘マンガに近いかもしれません。

このような技、プリキュアシリーズで、ここまで印象的に前景化されるのは、初めてのことなのではないでしょうか。
なかなか、文字どおりパンチが効いた新機軸です。

ぃやはゃ、どうしてこうなった??
(いいぞもっとやれw)

もちろん、キュアプレシャスには、敵モンスターを浄化する決め技、いわゆる必殺技である「プリキュア・プレシャストライアングル」もいちおう設定はされており、実際に最後にはこれが用いられはするのですが、………でも子どもたちのプリキュアごっこ映えするのは、どっちかというとこちら「500キロカロリーパンチ」のほうですよねー。
なりきり遊びの中での使い勝手が良いというか……。

おそらくは今頃、全国の幼稚園・保育園での園児たちの遊びにおいて、この「500キロカロリーパ~ンチっ」が頻出しているのではないでしょうか。
で、女の子たちの500キロカロリーパンチごっこに興ずる様子を見ては、アンチジェンダーフリー論者たちが「プリキュアのせいで女の子が乱暴になった。行き過ぎた男女平等教育のせいだ」などと嘆いていたりもするのでしょうか。
…いゃ~じつにスバラシイ。
女の子だって暴れたい」ノ

その意味でも、女児向けマーケティングで制作される作品での「500キロカロリーパンチ」、ここまでのプリキュアシリーズの蓄積のうえに、さらなる一歩を踏み込んだと評価できると思われます。


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さて、『デリシャスパーティ プリキュア』の注目ポイント、他にもあります。

公式サイトでは、メイン主人公・和実ゆいの幼馴染であると紹介されている、こちら「品田拓海」。

プリキュア主人公の幼馴染男子といえば、『ハピネスチャージ プリキュア!』での愛乃めぐみに対する相楽誠司の存在が記憶に新しい(と言ってももう8年も前かぁ;)ところですが、往時の当該作では、プリキュア変身者であるメインキャラに身近な立ち位置の男子キャラの動かしづらさも浮き彫りになったものです。

  → ハピネスチャージプリキュア恋愛(異性愛)要素再投入の収支決算
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2015-01-25_HpCgPreCure

◇◇
今作では、そのあたり、きちんと「ハピネスチャージ反省会」をふまえて、どのようなソリューションを用意しているのでしょうか。
ソコはじっくり見守っていかないとなりますまい。

その際、着目すべきなのは、この謎の「タキシード仮面」

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おそらくは品田拓海が「変身」したものであろうとは予測されるわけですが、第5話までの時点では作中には未登場で、今後どのようにプリキュアたちとかかわってくるのか、その如何が気になるところではあります。

ここ一番というタイミングを見計らったように登場しては「今だ! セーラームーン!!」とか言って最もオイシイところを持っていく、すなわち元祖タキシード仮面まんまでは、令和のプリキュアにはミスマッチです。
はて、そこらあたりはどうブラッシュアップされるのか、刮目して見届けたいところです。

で、『セーラームーン』での元祖タキシード仮面は、あれはじつはああいう衣装を着ているだけ、身も蓋もない言い方をすれば単なる「コスプレ」なわけですよね
(セーラームーン原作や実写版ではそのように描かれている/旧テレビアニメ版では「変身」のように位置づけられていたりも)。

しかるに今般のこの仮称「タキシード仮面」はどうなのでしょうか。
オープニングのタイトルバック映像では、プリキュアと一緒に空を飛んでいるようなシーンもあります。
これが単なる「イメージです」なのか、それとも本当になにがしかの超常的なパワーでプリキュアと同様の「変身」をした結果なのか……。

もしも後者だとしたら、ある意味、「男子プリキュア」、初のレギュラー登場!! という事例にもなるわけです
(「男子プリキュア」自体は『HUGっと!プリキュア』で達成済み)。
やっぱり、いちじるしく目が離せないですね。

(2023/02/07)
この「謎の白タキシード仮面」の登場後の様子については、次年度プリキュアについての記事中で紹介しています。
  → 可能性ひろがるスカイ!プリキュア男子レギュラー登場
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2023-02-07_HRskPr-wing
(2023/02/07)
◇◇

◎この仮称・謎の「タキシード仮面」……ですが、情報が公開されるやいなやファンの間では「タキシード仮面」という語彙は適用されるようになっていきました。
『セーラームーン』シリーズでの元祖タキシード仮面を想起させる要素が濃厚なので、必然ではありましょう。
このように、参照可能な前例があり、その語彙があまねく知られていて、概念として一般化されているというのは、コミュニケーションにおける大きなアドバンテージですね。
そうでなければ(例えば性的少数者について「LGBT」のような言い表し方がなく、セクシュアルマイノリティがすべからく「ホモ・レズ・オカマ」的な認識に留められてしまっていた時代のように)多くの人の間で広く議論を共有することが困難となり、知的な営為が遅滞してしまうことになりますから。
そして、そう考えると、今では「プリキュア」もまた(、それに先駆けて「仮面ライダー」や「ウルトラマン」がそうなってきていたように)前例が参照可能な概念として一般化に至っている広範に知られた語彙に育ってきているとも言えるでしょう。私も当ブログの最近の記事では総体的な「プリキュア」概念自体については、もはやノーイクスキューズで記述しています。
例えば『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』にはじまり最新作『ビッ友×戦士 キラメキパワーズ!』で5作目を数える「ガールズ×戦士シリーズ」のことを知らない人に説明する際にも「実写版のプリキュアみたいなの」と言えばだいたい理解されるというのは、プリキュアシリーズの20年近い蓄積がもたらしたものが、今日ではコミュニケーションの際の大きなリソースに育っている証左でしょう。


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もうひとつ。
こちらも『ハピネスチャージ プリキュア!』が思い起こされる、プリキュア変身者であるメインキャラに身近な立ち位置の「成人男性」の案件です。

成人男性が重要キャラとして主人公らの近くに配置されるのは、プリキュアシリーズではやはり一歩間違うといろいろ面倒になる、滅法リスキーな設定です。
ゆえに幼馴染男子以上に「ハピネスチャージ反省会」が不可欠。
今般の『デリシャスパーティ』では、ソコをふまえてどのように料理したのでしょうか。

その答えが……、そう、この「マリちゃん」ことローズマリー氏!!

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なるほど!

プリキュアシリーズで主人公らの近くに配置される成人男性キャラとしては………、え゛~~っ、成人男性……………、んー、「男性」な……んでしょうかねぇ??

てゆか、かく言うワタクシ自身がトランスジェンダーとして日々の生活を送っているわけなので、このようにクィアな為人の人物がアニメキャラとして配置されること自体に異論があるわけではもちろんありません。
まぁそれに、何らかのトランスジェンダー要素があるキャラクター、幾許かのクィアネスを抱えた登場人物、日本のアニメではそもそも珍しくもナンともありません。

とはいえ、旧来の「おネェキャラ」「オカマキャラ」の表象には、今日的な基準で評定するなら人権上問題含みなケースがままありがちだったのも事実。

そして、そのうえで、ここ数年は特に、フィクション作品で描かれるクィアな為人の登場人物について、その表現メソッドが、年年歳歳アップデートが重ねられ、非常に洗練された状況になってきているのは、大変に好ましい流れだと言えるでしょう。

『ガンダムビルドダイバーズ』のマギーさんや、プリキュアシリーズの中でも『魔法つかいプリキュア』のフランソワさんなどは、なかなかの画期的な事例でした。
……思えば「翠星のガルガンティア5話問題」も、もはや9年前になるわけですか。

  → むしろ「ガンダムビルドダイバーズ」のほうが「キラッとプリ☆チャン」よりも「プリパラ」の後番組な件
  https://stream-tomorine3908.blog.ss-blog.jp/2018-05-25_VR-player
◇◇

と、なると、今般のローズマリー氏も、そうした文脈の上での登場なので、逆に特筆すべき事案ではないというのも一面の真理です。

ただ、しかし、ソコを差し引いてもローズマリー氏、何かどこか新しい感があるのですね。

具体的には挙げにくいのですが、おそらくは、もはや「おネェキャラ」などといった呼称が妥当しないくらい、描写の水準が上がっている。

むしろ「ノンバイナリーなセクシュアリティの人物が当然に存在することを社会の成員の誰もが認識している」のような説明のほうが適切なくらいの世界観を、きわめてナチュラルに、かつ肯定的に提示することに成功している。

強いて言語化するなら、たぶん、そんなところだと考えられます。

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結果として、プリキュア変身者である女子中学生たちと、親密に交流する場面にも違和感が生じない。

「マリちゃん」という愛称が、ローズマリー氏本人がそう呼ぶように提案したからであっても、まったく不自然ではないですし、主人公らと一緒に街へ出かけては、コスメショップでメイクの話題で盛り上がる……みたいなシーンもひとえに微笑ましく仕上がっている
(余談ながらシリーズ前作で好評だったプリキュアオリジナルのコスメブランド「 Pretty Holic(プリティホリック)」の展開、今作にも引き継がれて継続しています)

なので、現実世界の異性愛規範には回収されないし、男女二元的な性別観念を超えた「好きの多様性」の提示とも親和的。

そうしたメリットも最大化されています。

もっと言えば、そうしたメリットを期した設定としての「おネェキャラ」において、ここまで洗練された描写が可能になるくらい時代が進んできた、その時代を、プリキュアシリーズの制作陣が、的確に、上手いこと掴んだ、そういうことなのかもしれません。

ちなみにローズマリー氏、役回りは、物語冒頭で異世界から使命を帯びて、人間界でのプリキュア変身者にパワーを付与するリソースを伴ってやって来る……わけですから、これはよくよく考えると、シリーズ前作『トロピカル~ジュ!プリキュア』と突合するなら「ローラ」に対応する立ち位置です。

前作でのローラの役割を果たすことができる「成人男性」キャラ、という課題への解答なのだとすれば、ローズマリー氏、これ以上ないキャラ造形だったと言えるのではないでしょうか。

しこうして、『デリシャスパーティ プリキュア』を視聴する子どもたちにとっても、本当に「ノンバイナリーなセクシュアリティの人物が当然に存在する」のがこの社会なのだという認識が涵養されていく。
じつにじつに有意義であり、画期的であります。

◎なお、今日の一般的な視聴者が持っている観念に照らして明示的にクィアネスを認識できるキャラ造形の登場人物は、マリちゃんことローズマリー氏のみではあるのですが、『デリシャスパーティ プリキュア』公式サイトのキャラ紹介では、じつはどの人物についても性別にかかわる情報は記載されていません。
例えばメイン主人公・和実ゆいなら、「のびのびとした真っ直ぐ元気な中学2年生。」とはあるものの、これすなわち「……っ直ぐ元気な中学2年生の女の子」とは書かれていないわけです。
現在のところ、基本的に人間界、異世界側、敵陣営を問わず、その方針は貫かれています。
唯一、例外が「妖精」枠。プリキュアの力の源泉を宿した存在である「エナジー妖精」について紹介する箇所ですが、ここにだけはこれは女の子、こちらは男の子といった記述があるのです。
逆に考えれば、あえて「妖精」枠にだけは性別情報を記しておきながら、「人間」キャラには一切それをしていないというのは、何か積極的な意図があってのことだと解せます。
つまりこれは、明示的にはクィアな表象をまとったキャラでなくとも、必ずしもいわゆるシスジェンダーの人物とは限らないヨ……という前提で制作側が作品世界をつくっている、そういうことだとも言えてくるでしょう。
実際、私たちの社会生活においては、誰が女性で誰が男性かなんていうのは、互いに相手の人物像を観測した結果を社会的に共有されている解釈コードに当てはめて解釈した結果にすぎません。
そこでの解釈の結果以外に、どこかにその人の「本当の性別」があるのではないかなどと邪推するのは、その場その場の構成員どうしが社会関係を結びその場の円滑な進行を期して相互行為をおこなううえではまったく意味がないのです
(というような話も拙著『性別解体新書』にまとめてありますし、そのまさに「研究ノート」に該当する記事も当ブログ内でいろいろ書いています)。
要するに、多少因習的な言い回しにコミットするなら「女性に見えるならソレは女性であって、ただし元々は男性だった可能性だってある。あるいはその逆パターンも。そういうもんなんだよ、すべからく」ということですね。
こうした考え方が制作陣の念頭にあったうえで、作品世界が架構されているのだとすれば、『デリシャスパーティ プリキュア』、さらなるなかなかの侮れなさだということになりますね。


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『デリシャスパーティ プリキュア』はまだ始まったばかりですが(当記事は第5話まで放送済み、視聴した時点で記述しています)、にもかかわらず、これだけの見どころが指摘できます。

「 Delicious Party 」とは、第一義的には「みんなでいっしょに美味しいものでも食べて楽しくパーティしよう」という含意なのだとは思われますが、英語の訳し方次第では、《美味しい戦隊!プリキュア!!》だとも解釈可能だったりします。
そこらあたりにも、今作がいろいろ攻めている、その片鱗が窺えるかもしれません。

ぜひ、この先も楽しみに、しっかり見守っていきたいところです。


  

  


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