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アニメアイドルは現実世界に関わる力を持っている [メディア・家族・教育等とジェンダー]

さて前記事にてタイトルだけ紹介したアイドル事変ですが、なかなか見どころのある展開が続いています。

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※画像は放送画面や公式のサイトから(以下当記事中同じ)

 → 「アイドル事変」公式サイト


アイドルアニメもすでに乱立している中では、この作品のように「アイドルが国会議員というユニークな捻り方は印象的です。
たしかにリアルに寄せすぎたシビアな政治ドラマを描くことは避けられていますが、アイドルの表象やアニメとしての作劇とのバランスを考えれば、妥当な塩梅ではないでしょうか。
アイドル議員のライブによってアイドルオーラが発散され、それによって敵対政党の議員たちがメロメロになって改心する(いわゆるマクロスシリーズの「で、デカルチャーっ!」的に)という展開も、フィクションの物語の楽しさというものです。
そうした中で、さまざまな社会問題には思いのほか真摯に向き合って解決策を模索し、既存の常識にとらわれない斬新なアイデアや実行力を示す様子などは、この国の政治の閉塞した状況に本当に一石を投ずるものとも言えましょう。

昨年の「ユリイカ」のアイドルアニメ特集(ユリイカ2016年9月臨時増刊号 [総特集=アイドルアニメ] 青土社)で私は寄稿した「『マクロスΔ』の三位一体とケアの倫理の可能性」にて

…「ケアの倫理」に基づき、仲間との関係性の中で相互に配慮しあい、気持ちを尊重しあい、ときに癒しあいながら、より多くの人々との間で共感・協調・共生の輪を広げていくことを期して歌うアイドルたちの物語には、公的領域の「正義の倫理」のしがらみの中で膠着した諸問題をときほぐす希望がある。
(中略)
現在の日本のアイドルアニメのアイドルたちは、アニメ作中でそうしているように、もはやじゅうぶんに現実世界に関わる力を持っている。軍事的な衝突の場のみならず、政治や経済など、公的領域のあらゆる局面に「ケアの倫理」が届けられたら、それは世界をもっと平和で豊かな方向へ構造変革することにつながるはずだ……

…と述べましたが、それをふまえると、まさしくこの『アイドル事変』は、アニメのアイドルが現実の政治を動かしていく力を持っているという指摘への、ひとつのアンサーになっているとも思えます。


  

  


特にここまでで注目に値するエピソードは、例えば第5話「事変05 保育園天国」

なるほど「保育園落ちた、日本死ね」が流行語になる今、政治の問題にかかわる以上は「保育園」は避けて通れないテーマでしょう。

親の就労時間中の保育は福祉施策として必要不可欠であるはずだという前提のもとで、敵対政党の議員による「女のシアワセは家庭に入って家事育児をすることだろう」といった因習的な価値観念が対比的に描かれるのも、現実に鑑みるとなかなか生々しいところを突いています。

この回では敵対政党の議員が翻意に至るのも(マクロス的「デカルチャー」ではなく)論理的な説得の結果なのですが、それが保育園に子どもを預ける母親たちが、じつは社会に欠かせないさまざまな職業のエキスパートである様子をあらためてまのあたりにした結果だというのも、思いのほか丁寧な作劇でした。

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第6話「事変06 TOO SHY SHY GIRL!」では、アイドル議員のひとりがシャイな性格のため委員会質問なども上手にできないことに悩みながら、自分なりのスタイルを確立していくプロセスが描かれました。

それ自体はわりとありがちなプロットとも言えますが、国会でのアイドル議員という舞台設定が効果して、いわば「男社会」であった政治の場には、いわゆる「普通の女の子」がそこで活躍するうえでの有形無形の参入障壁があり、現行の議院の規則や慣習が旧弊にとらわれすぎなのではないかという疑問を暗示しているようにも読めました。

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これより後の回では、敵対政党が政権与党の地位を利用して、さまざまな妨害工作を仕掛けてくる展開もあるようです。
既得権益を固守する政治の中枢に対して、果たしてケアの倫理は届くのか。
アイドル議員たちの取り組みの結末は見逃せないところです。

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ともあれ、昨年には選挙権年齢が18歳に引き下げられた今、こうしてアイドルという表向きの切り口を活かしながら、政治にかかわる内容がアニメに取り入れられるのは良いことです。

近年では『ガッチャマンクラウズ』が、やはり政治をめぐる諸問題に肉薄するドラマを展開するアニメとして注目を集めていましたが、『アイドル事変』もまた、その系譜に連なるものとして位置づけて評価してよいのではないでしょうか。


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