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女性の扱いが酷い機動戦士ガンダムAGEが強いられてるもの [メディア・家族・教育等とジェンダー]

『機動戦士ガンダムAGE』は引き続き厳しい状況です。
いわゆる「親子三世代にわたる壮大な物語」における、2世代目の主人公によるアセム編も、当初は「学校行事の最中に敵が襲撃してくるプロットがまるでプリキュアみたいな今までにないパターンのガンダム物語でコレはおもしろい」なんて具合に好評だった[ 学園編 ]の中でこそアセムの性格のよさも光っていたのに、そういった視聴者ニーズを捕らえられないままに、今では主人公の人格がどんどん歪んで壊れていく鬱展開に陥ってしまい、かといってそれも作中の登場人物たちがちょっとずつ気をつけて譲り合えば防げるもののようにしか見えず、人間社会の深い業の中での若者の悩ましい葛藤が的確に描けているわけでもなく、結局は視聴者の誰もが望んでいない安易な作劇が制作サイドによって続けられているという印象が否めません。

とにかく『輪廻のラグランジェ』を観て『モーレツ宇宙海賊』を観て、それから『機動戦士ガンダムAGE』を観ると、いちじるしく見劣りがするというのは、あくまでも「個人の感想です」ですが、同じような「個人の感想」を持つ人が相当に広汎に存在することも、例のツイッターなどでのやり取りを見ても確かであります。


特に比較に出した2作品と並べると、明らかにマヅいのは女性キャラの描き方です。
『機動戦士ガンダムAGE』では生き生きと活躍する個性的で魅力のある女性キャラがいない、もしくは、個性的で魅力のある女性キャラを生き生きと活躍させることが上手くできていない のです。

そもそもその点で言えば「親子三世代にわたる物語」というのがマチガイの元で、そういう枠組みの中では、いきおい女性キャラは、以前に某厚生労働大臣が辞職に追い込まれた失言のごとく女は産む機械」ポジションに陥る危険が大です。

そして、世代がつながれることが前提となると、今の代の主人公がどのヒロインと結ばれて子どもを作るのか――のような異性愛主義的な読み解きを視聴者が強いられることにもなります。

そのあたり、どこか重苦しい家父長制の空気感となって、作品世界にまるでミノフスキー粒子のようにまとわりついているのが、視聴者にとってあまり心地よいものではないと言えるかもしれません。


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実際、2世代目主人公アセム編では、メインのヒロインとしてロマリー・ストーンという人物が設定されていますが、これがまた絵に描いたように凡庸な、ただちょっとカワイイだけの中途半端な少女でしかないのです。

演じている声優・花澤香菜さんも、同じく声を担当している『モーレツ宇宙海賊』のチアキ・クリハラをノリノリで気持ちよさそうに演じておられるのに比して、なんかつかみどころが捉えきれずに演じにくそうにしている様子が伝わってくる気がします。
同じように宇宙船のブリッジで通信オペレーターをするシーンがあったりするものですから、余計にそのあたりがハッキリ比較できちゃったりしますし。

まぁチアキ・クリハラは、我が娘・満咲からもお墨付きが出ていて、「喋り方がカッコイイ」などとお気に入りの様子ですから、まちがいなく個性的で魅力ある女性キャラが生き生きと活躍している事例でしょう。

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§さまざまな女性が活躍する『モーレツ宇宙海賊』
 中央の主人公・加藤茉莉花の右がチアキ・クリハラ

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一方、アセムのパイロット仲間というポジションで、アリーサ・ガンヘイルという女性も配置されています。

彼女は………カッコイイのです。

裏表のないサッパリした性格で、見た目もイイ意味で性別を感じさせない。
そして、男女という制度を超えたところから主人公アセムの良き友であろうとするその態度が、非常に好感が持てるのです。

演じている小清水亜美さんも、上記ロマリーの例と逆パターンで、主人公としてキャラが定まらずに苦労していた印象のあるスイートプリキュアの北条響とは対照的に、上手く役づくりを仕上げてイイ味を出しています。

アセム編のキャラクターとしては随一光っている彼女とアセムの友情の展開は、ある意味現在唯一楽しみなポイントでもあります。

……が、今の展開の方向性を見た限り、ワタシが期待するものをやってくれそうな気配ではないですねぇ、やっぱり。


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あと、整備士という役どころのレミ・ルースという眼鏡っ子も、女性キャラとして大いに画期的です。
が、残念ながら初登場時のメカオタクぶりなど、女整備士キャラとして期待したい描写はどんどん縮小され、他の男性キャラからの恋愛対象という矮小化された位置付けに収められようとしているのは残念と言うより他はありません。

結局のところ、これらは制作者の女性というものに対する発想を反映していると言わざるを得ないのでしょうか?


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そうして、もはや出番がまったくなくなったのが、主人公アセムの妹・ユノアです。

この前にも述べたとおり、アセムの父であり第一世代目の主人公フリットは、アセム編の冒頭で2人いる子どもたちのうちのアセムのみにガンダムを継承させようとします。
男の子と女の子なら、コレはもちろん男の子のものと、性別役割をまったくの当然のものとして前提にしてしまっているのは、はたして作中のフリットがそういう考え方だからなのでしょうか。
「ガンダムに乗って人々を救う使命がアスノ男の役目」で本当によいのでしょうか?
そしてその際のユノアのセリフ
「えぇー、イイなぁ、お兄ちゃんばっかりズルい~」
…というような訴えは、まったく無視された格好です。

でもって、その後は出番ナシでは、ユノアを登場人物として設定する意味がわかりません。
いやマジこれならアセム一人っ子でもよかったんじゃね?

もっと言えば(アセムには悪いけど)むしろユノアが2世代目の主人公でもよかったのではないでしょうか。
過去のガンダムワールドでは女性がモビルスーツのパイロットである例なんてフツーにあります。ここらで一丁、主人公として女性をガンダムに乗せることに何の問題もありません
そうして、女の子どうしの友情エピソードなどを織りまぜながら、十代の少女が人々を守るために戦うことを通じて自分を見つめ直す物語を仕立てていけば、それはまさに新しいガンダム像にもなりえていたはずです。

いわばソレをできなかったことが、『機動戦士ガンダムAGE』が同じようにロボットや宇宙を描いているのに輪廻のラグランジェ』や『モーレツ宇宙海賊』と比べて見劣りがする最大の原因を象徴的に示しているのかもしれません。


※当記事の画像はすべて公式サイトよりキャプチャ
 →機動戦士ガンダムAGE  →モーレツ宇宙海賊

 

◎というわけで、またまた欲求不満解消に、ユノアが主人公のスピンオフストーリー考えてみました。題して…
 『 僕の妹はガンダムに乗れる 』

第1話「伝説の戦士!ガンダム再び大地に立つ」

ユノア・アスノはスペースコロニー「トルディア」にあるハイスクールの1年生。
部活はモビルスーツ部で、毎日プチモビルスーツに乗って困っている人を手助けすることに喜びを覚えている。
「じゃあね、ユノア」
「うん、また明日ねー」
期末テストが近づき、部活もなく、早めに学校が終わったその日、ユノアはのんびりと家路を歩きながら上方を仰いだ。
「うーん、気持ちいいナ。天気の予定表よりも天気イイじゃんっ」」
――と、何かがユノアのほうへ向かって落下してきた。
「え、えぇっ!?」
避ける間もなくバレーボールのようなその物体はユノアの顔面を直撃した。
パッカーんっ!
「ぃいったーい」
気を取りなおして前方を見ると、反動で数メートル転がったそのボール物体は、再びユノアのほうへ飛んでくる。
「見つけた~っ! ボクの名前はハロだハロ。チミからは救世主の気配がするハロ。お願いだ、伝説の戦士になって、ボクたちの世界を救って欲しいハロ!」
(中略)
「事情はだいたいわかったわ。じゃその伝説の戦士にはどうやって変身するの?」
「…………『変身』ハロ?」
「そうだよ、アニメとかだったら、こういうときハロからなんかこういうアイテムか何かを授かって、それを使ったらピロリロリ~~ンって……」
「そんなのはないハロ」
「えぇーーっ、じゃどうやって敵と戦うのよ?」
「頼みを引き受けてくれたんなら、その方法まで自分で考えて用意してほしいハロ」
「うっそー、ありえな~い。アタシあくまでもフツーの女子高生にすぎないんですけどぉ」
一時はその気になったユノアだが、妖精ハロの不思議な力で美少女戦士に変身するわけではないとわかり困惑する。
そのときだった。
大きな爆音。
そして、コロニーの大地が激しく振動した。
「きゃっ、何!?」
「大変ハロ、奴らがここまで来たハロ」
空中を動くいくつかの黒い影がが見えた。
(ヴェイガン? ううん、そうか、あれが……)
以前にトルディアがヴェイガンの襲撃を受けたときのことを思い出しながら、同時にユノアの記憶の中に閃くものがあった。
「伝説の」、「救世主」、かつて父と兄の会話の中に出ていたいくつかのフレーズが、まるでパズルが完成するように、先ほどのハロの話と1本の線でつながった。
そうだ。
我が家には……あったんだ。
「ガンダム!!」
(中略)
「それって……前にお兄ちゃんが貰ってたやつ、 バルガス?」
「そうじゃ、こんなこともあろうかとコピーを作ろうとは前からしておったんじゃが、いかんせん特殊なメモリーユニットでな、なかなかうまいこといかんかったのが、どういうわけか昨日たまたま成功したんじゃ」
今は軍に入ってどこかでモビルスーツに乗っている兄アセムが、連邦軍司令官である父フリットから、何年か前の夕食時、同様の物体をおもむろに手渡されていたことをユノアは思い出した。
そのときは兄だけがそれを受け取ることが、自分が女の子だからと差別されているように感じて「お兄ちゃんだけズルい」などと口走ったものである。
「じゃぁ、それを使えば馬小屋にあるガンダムAGE-1を動かせるのね?」
「うむ、ガンダムのほうは、ワシが日頃から整備しておるからバッチリじゃ」
そんなやり取りのうちにも戸外からは爆発音が聞こえてくる。
スペースコロニーの地面はゆっくりゆらゆらと揺れた。
「わかった。アタシ、やってみる!」
「気をつけてね、ユノア」
母エミリーの気遣いを嬉しく思いつつ、ユノアはバルガスからAGEデバイスを受け取ると、馬小屋へと駈け出した。
「ついておいで、ハロ」
「やったーハロ、ユノアはやっぱり伝説の戦士だったハロ」
「まかせといて。あんな奴らちょちょいのちょいでやっつけてやるから!」
そうは言ったものの、AGEデバイスを握る手には汗が滲んだ。
怖くないわけじゃない。敵は本気。殺されるかもしれない。
(本当に……自分にできるんだろうか? アタシで………いいのかな??)
でも、それ以上の高揚感をユノアは感じていた。
大好きなこの町が破壊されるまま指を咥えて見ているだけしかないなんて、そのほうが頭がおかしくなりそうだ。
今の自分だけがガンダムで戦える。みんなを助けることができる。
そう考えたとき、ユノアの胸の内には不思議な熱いパワーがこみ上げてくるのだった。
(中略)
馬小屋の飼葉の山をかき分けると、ガンダムの操縦席の入り口が姿を現した。
コックピットに座りAGEデバイスをセットすると、ガンダムの起動シークエンスがスタートする。
モニターシステムが作動するのに合わせて、ユノアは操縦レバーを握りしめた。
使用人のジョセとハンスが馬小屋の屋根を開いてくれていた。
「白い機体は平和の祈り! ガンダムAGE-1、ユノア・アスノ、行っきま~す!!」
思い切りジャンプしようと目論めば、ガンダムAGE-1はユノアの思いに応えるように意図どおり動いた。
「おぉーっ、スゴイ。やっぱ部活のプチモビとはちがうなー、ガンダム」
「スゴイ、ガンダム、ユノア、スゴイ…ハロ」
馬小屋が眼下に下がったのを確かめてユノアはバーニアを吹かす。
いくつかの情報がアラートされるモニターに、しかし敵のモビルスーツ型の狼藉ぶりは目視でもしっかりと確認できた。
「アイツら、なんてことを」
もはや戸惑いや恐怖よりも、義憤が優っていた。
ユノアが操縦レバーを操作すると、ガンダムはちょうど敵の中では格上らしきモビルスーツ型の前へと舞い降りる。
思わずユノアはコックピットの中で誰に聞かせるわけでもなく叫んでいた。
「みんなが楽しく暮らしてるこのトルディアで、迷惑も顧みず暴れまわるなんて……、絶対に許さない!」
(後略)


(^o^;)


 


 
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