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プリキュアとミソジニー、スマイルからスイートをふりかえる [メディア・家族・教育等とジェンダー]

今年度(2012年度)のプリキュアシリーズ『スマイルプリキュア』なのですが、これは端的に言ってオモシロイです。

 BL120505-01SmlPcure.JPG

 →東映アニメーション公式サイトスマイルプリキュア
  (引用画像はこの公式サイトよりキャプチャ)


各々のキャラが立っていて、ストーリーが勢いよく回っていて、明るく楽しく、日曜日の朝に元気をもらえるアニメに仕上がっています。

放映が始まって久しいのに、前記事の『聖闘士星矢Ω』との関連で触れるようなパターン以外では、今日までメインで記事にする機会がなかったことについては、それだけ急いで指摘せねばならないような問題点もなかったということでよいでしょう。

ブログ記事はどうしてもワンクッション置いてから書くということもあるので、時期によってはたしかに延び延びになることもあります。
その点ツイッターは相対的にフットワークが軽いシステムなので、例えばプリキュアについてもオンエア当日に感想を述べてたりすることはあります。
  →佐倉智美ツイッター
  →「ツイログ」ではキーワードで絞り込んだりもできます


ただ、逆に何か評価すべき特筆事項はとなると、このブログ的には「『聖闘士星矢Ω』とパラレル」みたいな話を除いて、作品に内在する特徴で探したとき、なかなか論理的なポイントは見つからないのも事実です。

※その後の展開を受けた考察はこちら↓(2013/02/03)
 「
スマイルプリキュアのハッピーエンドが見えてきた
 「
スマイルプリキュア最終決戦編に見た居場所の社会学

例えば、
『ハートキャッチプリキュア』の、ひとりひとり自分自身の「心」を大切に育み、自分で自分を好きになろう――というメッセージを打ち出し、ありのままの自分が否定される不幸というものをわかりやすく描いていた点。
特に、キュアサンシャインに変身する「いつき」の「ありのままの自分」を阻害する要素としてジェンダーの問題が取り上げられ、男らしくとか女らしくとかよりも、せいいっぱい生きているありのままの自分が尊いんだと、子どもにもわかりやすく伝えていた点。
あるいは、
『フレッシュプリキュア』でも、超管理社会を敵陣営に据えることで全てを管理される不幸に比べれば悩み傷つきながらも自分で考えて選んでいくことが幸せをゲットする道なんだというメッセージとともに、敵幹部の改心展開を通じたさまざまな深みのある人間ドラマが秀逸だったこと――。

…そういったものを『スマイルプリキュア』に探したとき、現時点では「うーん、何かなぁ??」といった感じなのです。

いちおうは作品の軸として据えられているとおぼしき「バッドエンド/ハッピーエンド」という部分についても、いまひとつ練り込みが不足している印象で、何がバッドエンドでどういうハッピーエンドがハッピーなのかについて、この先キチンと掘り下げて描かれていくのか、一抹の不安は残ったままです。

しかし、それにもかかわらず、オモシロイと感じられ、視聴後はなんとなくハッピーな気分になれていて、来週もまた見たいと思わされるというのは、逆にそれだけの傑作ということでもあるかもしれません。

要はエンターテイメントですから、理屈よりも感性に訴えるものが重要な場合だってあっていいわけです。

だいいち『ハートキャッチ』や『フレッシュ』においてこそ、上述のような高度な評価ポイントが盛り込まれるようになっていましたが、それ以前のプリキュアシリーズでは、まずは例えば「女の子どうしで友情を育みながら戦いの課題に対峙していく」というところが、もうすでにじゅうぶんに評価対象でした。

『スマイルプリキュア』の場合、どちらかというといわゆる「日常系アニメ」のフォーマットを上手に動かす中にプリキュア的プロットも含めるような構成を試みているように読み取れるところもあり、それはそれで意欲的な挑戦とも言えます。

総合的にとらえて、現時点では『スマイルプリキュア』は日曜朝のアニメとして高く評価してよいのではないでしょうか。

そして、「高度な評価ポイントについては特記事項がないが、でもオモシロイからOKな『スマイルプリキュア』」の存在をふまえて、今一度ふりかえると、やはり前シリーズ『スイートプリキュア』が突出して異様な番組だったことが痛感されます。

あの見るたびに覚えた違和感は、いったい何だったのでしょう!?

「高度な評価ポイント」的な観点からの問題点は、たしかに以前の記事「番組自体が不幸のメロディ」や「海原雄山じゃなくても怒るレベル」でもまとめたとおりです。

しかし、そういうものがなくても「視聴者において素直に楽しめる日常系アニメ」は作れるのだとしたら、もうひとつ【スイートプリキュアが気持ち悪かった理由】の核心があるはずです。

それははてさて何なのか?

……そう考えたときに、ふと思い至ったのが、世間での『スイートプリキュア』に対する一般的な評価が『機動戦士ガンダムAGE』の不評と重なる点です。

以前の記事でも書きましたが、それは、制作陣に畑違いの人を連れてきて重要ポストに就けたことが奏効していないとか、シリーズのテンプレートに縛られる中で独自性を出せていないとか、いや逆に伝統あるブランドに胡座をかきすぎたのではとか、ともかく話の流れが不自然、キャラが描けてない、舞台設定に無理が感じられる……といったことです。

ただ、ソレも含めて『機動戦士ガンダムAGE』の最大最悪の問題点はといえば「女性キャラの人格や主体性の描写があまりにもなってない」というところなのではないかというのが私の見立てでした。

詳しくはこれもすでに先日の記事「女性の扱いが酷い機動戦士ガンダムAGEが強いられてるもの」でまとめたとおりですが、これを、スイプリとガンダムAGEには共通点があるということで、ガンダム側からスイートプリキュアに当てはめてみたらどうなるでしょうか??

もしかして、


スイートプリキュアは

「女性が描けてなかった」!?


……………………。

いやいや、まさか、仮にもいわゆる「女の子アニメ」の看板作品となっているプリキュアシリーズにおいて、女の子の人格や主体性が描写ができていないなんて、そんなまるで怪獣映画に怪獣が出てこないみたいなことがあるわけな―――


しかし、あらためてソノ視点で見なおしてみると、結果じつに辻褄が合っちゃうんですねー、コレが!

つまり制作側が「女の子」というものを、いわゆる男性目線におけるミソジニー・女性嫌悪をともなった類型的な捉え方しかできていなかった。

だから初期のつまらない理由でのケンカばっかりでギスギスドロドロした人間関係描写も、女というものはこんなふうに醜い内面の生き物なのが真相さ……という制作側のステレオタイプの発露。

仮にも「しあわせのメロディ」の歌姫を決めるオーディションなのに、まるでライバルのトウシューズに画鋲を入れるかのごとき大昔の少女マンガにしか則っていない妬み嫉み僻み恨み展開になってしまうのは、女の子社会の多面性に理解が及んでいないから。

主人公たちをテンプレに沿って表層的にしか動かすことができず、内面の葛藤やそのプロセスを経た成長を描けなかったのも、女性を一人前の人間と認めていない証拠。

あまつさえ主人公・北条響を入学して1年以上も学校に門が2ヶ所あることに気づきもできない不自然な認識力の持ち主に描いて平気なことなどは、女性の論理的な思考能力というものを過小評価しているから。

………とまぁ、ものすごくうまく説明がついちゃいます。

おそらく制作側の根本の部分に「人間としての女性が嫌い」というような無意識があったのではないでしょうか?

あのえもいわれぬ作品としての気持ち悪さの原因がそういうことだったのだとすれば、これは由々しき問題です。
今や世間的には「女の子に安心して見せられるアニメ」の代表格に育ったプリキュアブランドの一角を占める番組がそんなていたらくでは困ります。


逆に言えば、女児視聴者を念頭に「女の子アニメ」を標榜するのであれば、

 §女性という存在への人間的尊重
 §女の子社会の豊かな可能性への信頼
 §作中の女の子たちへの愛情に裏打ちされた視線

といったものが制作側のコンセンサスとしてベースにあることが必要なのではないでしょうか。

そうであればこそ、女子視聴者をエンパワーし、世の中のジェンダー構造の不条理に負けないスピリットを学べるような内容を紡いでほしいという社会の負託にも応えることができるようになるはずです。


そして、じつはこれらのものがしっかりと担保されているがゆえに、『スマイルプリキュア』のほうは安心して見ていられる番組になっているのかもしれませんし、たとえ表面上は難しいテーマに切り込むことが避けられているようであっても、何かが期待できるアニメ作品と思うことができる結果につながっているのではないでしょうか。

  

※明快でノリのいい主題歌は↑プリキュア史上最高の出来栄え
  (個人の感想です(^^))

前記事でネタにした「7月に登場するスマイルプリキュアの追加戦士」ですが、本当のところはどうなのでしょう?
すでに5人編成なのをさらに増やすと収拾がつかない危険性が想像できる一方、あと2人出てくる予想にも相応の論理的根拠があります。
何より「土属性」と「闇属性」のプリキュアを配置しておかないと『聖闘士星矢Ω』とのコラボ映画で困ります(^o^;)違
…てなわけで、ほんのネタですが、追加戦士2人加えて7属性揃えたうえで、現行メンバーの下の名前の漢字(公式には幼児に親しみやすいように?ひらがな表記)も考えてみました(^^)v

 キュアハッピー/星空みゆき→満幸輝 …光属性
  キュアサニー/日野あかね→明燃 …炎属性
  キュアピース/黄瀬やよい→和与雷 …雷属性
  キュアマーチ/緑川 なお→直扇 …風属性
キュアビューティ/青木れいか→麗洌 …水(と氷)属性

 キュアサークル/珠山 地花(ちか)…土属性
 キュアシェイド/安田 憩集(いこい)…闇属性

来年度のプリキュア予想というと気が早いかもしれませんが、シリーズが続くとすれば、いつかは星座モチーフのプリキュアもあっておかしくはないはずです。
ただ今期はそれこそ聖闘士星矢Ω(と仮面ライダーフォーゼ)とカブるので避けられた!?(主人公の名前「星空」ってのが企画初期には星座プリキュアが検討されてた名残りとか??)
あと宇宙ブームということで行くと、そろそろ妖精の不思議な力で伝説の戦士に変身するばかりではなく、もう少し科学寄りのプリキュアもあってよいかもしれません。
 超常的パワーの源は古代文明のオーパーツ
 そこに現代の科学技術を付加して作られた強化ギアを装着して戦う
 オーパーツの仕様で装着者は女の子限定
 指揮管理するのは政府機関
 学校の地下に秘密基地
……とかどうでしょう?
あっ
ソレってアレか!
『戦姫絶唱シンフォギア』(^o^;)
よくよく考えると、『戦姫絶唱シンフォギア』は女の子の友情物語をはじめプリキュアシリーズに期待される要素はしっかり網羅されていますし、音楽モチーフだし、響と奏も出てくるし、敵はノイズだし、いわば清く正しいスイプリのリメイクですナw
我が娘・満咲まで「……………………こっちのほうが本当のスイプリならよかったのに」とか言ってますし。
どうしてこうなった!?


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コメント 11

コメントの受付は締め切りました
ソバスチン

佐倉様の仰るとおり『スマイルプリキュア!』には日常アニメ的なエッセンスが感じ取れますね。
私や佐倉様含め「音楽のプリキュアなんだから『けいおん!』みたいな雰囲気にすれば良いのに」
というファンの前作に対する不満が受け入れられたとも考えられますが、手放しには喜べません
先週から続く修学旅行編の視聴率が振るわなかったからです、GWの最中という考えもありますが。
やはり、絵本やおとぎ話を題材にしながら日常的な描写が多いとお子様は飽きるかもしれません。

又、主人公たる星空みゆきのバックボーンが1クールを過ぎても見えてこないのがネックです(チアリーディングは?)
「底抜けに明るく、笑顔の耐えない娘」ということは十分に分かりましたがそのルーツが見えません。
(『仮面ライダーフォーゼ』の主人公、如月弦太朗からも同じ感覚がします。友情に熱い青年ということは理解できるのですが…)
これは、次回の「母の日エピソード」で期待できるのでしょうか?
「めざせハートキャッチ、追い越せハートキャッチ。」という気概のエピソードであってほしいです

ここからは私見を含みますが、何故日常アニメのようなエピソードが続くのかと考えてみて思いつくのが
「22話以降の為にキャラや作中世界(人間界)の描写をストックしているのでは?」という予想です
既にお気づきの方も多いでしょうが、「悪の皇帝ピエーロ」を封印しているとおぼしき時計の文字盤は22が頂点です
これは3幹部がバッドエナジーを収集する毎に針が1つ進みます。
今後順調にバッドエナジーを収集すれば…

そしてもう一つ気になる要素が8月発売予定のゲーム
『スマイルプリキュア! レッツゴー! メルヘンワールド』です。
http://www.famitsu.com/news/201205/10014422.html
このゲームの内容は本編においてもあり得るのではないでしょうか?
『5GOGO』で個人的にイマイチ感が否めなかった
「プリキュア5VSシビレッタ」をより本編に絡めてストーリーを展開させるのでは?と睨んでいます。
by ソバスチン (2012-05-11 22:57) 

ソバスチン

もう一つ『ガンダムAGE』と『スイートプリキュア♪』の共通点に関しては私も同意です。

これとは別にネットの海を彷徨っていると今現在『AGE』の不満の声に、ある単語がヒットします。
「老害」という単語です。
これは『スイートプリキュア♪』においても当てはまるのでは?と考えています。

「老害」というのは(アセム編後半及び)キオ編のフリット・アスノとスイートの調辺音吉でしょう。

・私怨で戦い粛清によって和平の芽を摘み取ってしまった結果戦争を長引かせた原因の一翼を担ったフリット
(退役しても軍の首脳部は彼の言いなりですし)
・響&奏に思わせぶりな態度ばかりとり真相を中々語らず事態を悪化させた音吉(孫も同罪ですが)
・ゲームを利用してキオを洗脳したフリット
・最終的に「幸せのメロディー」で世界を洗脳した音吉
(これはマジな見解です、劇中で幸福論も描かず具体性も無く幸せな気分になる音楽など「洗脳」に他なりません)

他にも色々挙げたいですけど…若者の足を引っ張り彼等から主体的に行動するきっかけを奪っているように感じられます
バトル物の作品において主人公の成長の結果の一つと言えるのが「自らの目で敵を見定める」事だと思います。
AGE3部はまだ始まったばかりのですからキオの今後を見なければ結果は分かりませんが。
アセムに関しては中途半端なまま行方不明になってしまいました。
彼がメフィストよろしく、敵に洗脳されて再登場したら苦笑せざる得ません。

スイートプリキュアの4人はとりあえずアフロディテと音吉に言われるがままに行動していました。
セイレーンの苦しみを理解してあげるのも、黒ミューズ&メフィストの正体を突き止めるのも
すべての黒幕がノイズであったことを突き止めるのも、彼女達自身の『力』によって成し遂げねばいけませんでした。
彼女達が最終的に何を悟ることが出来たのか作中から感じ取ることは出来ませんでした。
予定調和で終わったのも「老害」によるお膳立てに因る所が大きいのではないでしょうか?
by ソバスチン (2012-05-11 22:59) 

tomorine3908-

>ソバスチンさま
コメントありがとうございます~
(日頃はモロモロの事情でコメントへのリプライにこの欄は使わないのですが、今回はちょっと内容も多いので)
たしかにここ3回は若干パワーダウンしてる印象のあるスマプリですが、この後の母の日回がやはり要となるのでしょうか?
ワタシとしては全体として見れば、短期的な視聴率の変動にとらわれすぎなくても、作品としての勢いはじゅうぶんあると思っているのですが…。
ただ、ご教示いただいたゲーム情報にあるようなプロットが、本編にも導入されるような工夫は私も歓迎です。
番組として展開が単調にならずに、物語にも奥行きが出るでしょう。
おジャ魔女どれみで4回に1回魔女界編があった(満月のときだけ魔女界へのゲートが開くということで。残り3回が「日常」回)ように、適当に理由をつけて月イチでもソレすべきですよねー。
ギリシア神話の世界をバッドエナジーから救いに行く……というふうにすれば聖闘士星矢Ωとのコラボ映画も作りやすいですし(違^^;
あと
『ガンダムAGE』と『スイートプリキュア』の共通点に【老害】ってのも、なるほど! です。
現実世界の個別のケースにおける敬老の重要性は別として、物語世界をいつまでも大人が牛耳っていては若い主人公世代が主体的に動けなくなります。
さっきツイッターで https://twitter.com/#!/tomorine3908tw/status/201400422739615744 とか https://twitter.com/#!/tomorine3908tw/status/201404041085980672 とか書いたばかりなのですが、このあたりの描写を間違えている作品はやっぱりダメってことですねー。
あと「アセムが洗脳されて登場」がもし本当になったら現時点での予想の斜め下すぎますから、ワタシも絶対苦笑です。
巷間ウワサされるところではOPの海賊になってフリットと対峙する役回りなのでは?ですけど、コレもヘンな登場のしかただと、単に宇宙海賊ブームに便乗しただけになっちゃうでしょうね。
たしかにいろんな人がいろんな意味でモーパイ(モーレツ宇宙海賊)を見習えとは言ったけどwww


by tomorine3908- (2012-05-13 06:05) 

QuarrelBlue

 Twitterではお世話になっております。

 「スマイルプリキュア」は虫の回と母の日回、あと公式サイトや一部感想サイトを見ただけですけど、以前拝見した「スイートプリキュア」批判から「何がバッドエンドでどういうハッピーエンドがハッピーなのか」という視点を拝借するような形で見ていました。
 そこで回想してみると、(既にこの辺りは読み解いた上で「いまひとつ練り込みが不足」と評価しておられるのかもしれませんが)実は「バッドエンド/ハッピーエンド」という結果主義的な字面が半ばミスディレクション(という言い方が変なら、視聴者の「ハッピーエンド」というものに対する固定観念を問い直すためにそれをあえていったん表面化させる工夫)で、最終的には「外面的な結果よりも、不確実な未来に対し心を尽くして全力でつかみとったものこそがハッピーエンド」という方向に持っていこうとしているのではないかと感じました。
(「悔いのない結末」という言い方もできるかもしれません。スポーツものと違って正義の主人公が「敗れて悔いなし」とは言いにくいジャンルなので、「大切なのは希望を捨てずに精一杯やりぬくこと、結果は後からついてくるもの」というような言い換えも考えられますが。念のため言っておくと、「努力は報われるのだから成功しなかった者は努力が足りなかったのであり自業自得だ」という、いわゆる「努力教」は「外面的な結果をものさしにして努力の価値を量っている」という点で似て非なるものだと思います)

 虫の回のキー台詞「虫だって一生懸命生きてる」、母の日回での(定番的展開とも言えますが)「失敗も多いけど気持ちが大切」という流れ、毎回使われているらしい敵側攻勢発動フレーズ「白紙の未来を絶望に染める」、感想サイトで見たのですが主人公側各メンバー初回変身時の混乱ぶりなど、「先のことはわからないし成功の保証もないけど精一杯がんばってみる」というところに力点が置かれているように思えるので。
(……まさか、変身シークエンスで本当に「じゃんけんポン♪」をやるというのもバンク変身にあえてランダムゲームを入れることで「未来は不確実で多彩な可能性がある」ことを強調する伏線!?)

 情報によると少し前のお好み焼き回でも母の日回と近似の展開(主人公の一人が家族絡みで頑張って活動するけどなかなかうまくいかない→敵幹部が主人公の努力の産物に接してその成果を否定しせせら笑う→「そこに込められた真摯な気持ちに意味がある」と仲間の擁護を受け奮起して逆転勝利→努力の成果も認められめでたしめでたし)があったとかで、これが単なる使い回しでなく「主題の反復」であると考えるなら、ここで語られるメッセージが作品全体の軸とも密接に関わってくる気がします。

 「主題の反復」と言えば、戦闘シークエンス面でも「緒戦の優勢で勢いづいた敵幹部の嘲りに対する論駁から奮起して反撃」という流れが反復されているような。
 「せっかく優勢なのに毎回言わなくていいことを言って主人公たちを怒らせ反撃の勢いを与えてしまう間抜けな敵」と茶化すのはたやすいでしょうけど、ここで考えを逆転して、毎回言っているからには「言わなくていいこと」のように見えても実は「言わなくてはいけないこと」なのでは……と考えるとまた別の可能性が見えそうな気がしました。
 例えば、主人公と敵との戦いが単なる物理的な戦闘にとどまらず未来のあり方を巡る理念の対決でもあり、「世界をバッドエンドにする」という敵側の理念を実現するためには物理力の優越だけでなく否定的メッセージで主人公たちの心を挫き希望を打ち砕くことも重要、とか。
(そうだとすると、ここで行われるメッセージの応酬も作品全体のテーマと関わってくるはずで、敵が主人公の努力を外面的評価で無価値と切り捨てる描写自体が「外面的な結果だけで評価すること」の不当性を暗示しているのではないかと感じました。また、主人公側がこれに堂々と論駁して勝利につなげる展開には、外面的結果だけだととかく辛い評価をされがちな児童視聴者を激励しようという意図のようなものが感じられます)

 次は主人公チームの中でも一番の優等生が今まで取り組んできたことの意義に疑問を感じ何もかも放り出してしまいそうになるエピソードだそうで、個人的には作品全体のテーマとも深く関わる話になるのではないかと見ていますが、どういうメッセージが用意されるでしょうか。
by QuarrelBlue (2012-05-20 06:10) 

QuarrelBlue

……と思ったらこれは一体……!?(絶句)

 よく考えれば過去のシリーズ作でも変則バトルをはじめいろいろ展開はあったらしいですが……とりあえず以前見た回から集めた「基本フォーマット」のイメージにはちょっと偏りがあったのかもしれません。

 ただ少なくとも今回のエピソードが全体テーマから完全に分離した話というわけではなくて、例えば敵が「解けなかった問題が解けるようになった子供」を呪詛して(=「成長する喜び」を潰すことで)悪のエネルギーを獲得するとか、主人公側で今回メインを張ったメンバーが迷いの末の境地として持ってきた「自分のやりたいことを見つけるためにも、もっといろいろなことを知りたい」というフレーズとか、あと最終問題で叩きつけた解答とかは(先のコメントでは根拠をまとめきれずに、また番組自体の読み解きから自然に出てきているのではないかとも思って、割愛した部分なのですが)以前のエピソードで敵が主人公の努力や気付きを外面的評価だけで無価値と切り捨てる(まるで学習性無力感を醸成しようとしているような)ネガティブメッセージやそれに論駁して奮起する主人公側のポジティブメッセージ、さらにはオープニングテーマ歌詞のそこここに散りばめられた語句とも呼応して「不確定の未来に思う存分夢を描き、それを目指して懸命に前進し成長する権利」といったような概念と結びついているのではないかと感じました。
(そういえば、以前「ガンダムAGE」絡みのTweetで「児童の権利条約」に言及してましたけど、「児童の権利条約」の解釈で……複数条項にまたがる横断的な権利概念として?……「発達する権利」という概念がありませんでしたっけ)

……「成長の可能性を肯定する」というテーマは過去作の「なりたい自分になる」などと重複する面を含むかもしれないので「高度な評価ポイント」面で「いまひとつ練り込みが不足」というのはそこのことかとも思ったのですが、「成長肯定」そのものは児童向けアニメでは普遍的なテーマかもしれないのでその辺りは感想の読み解きに迷うところです。

※余談1:
「怪獣映画に怪獣が出てこないみたいな」と聞いて連想したのは「エメリッヒ版ゴジラに対する怪獣映画ファンの批判」……

※余談2:
「もう少し科学寄りのプリキュア」というフレーズでいろいろイメージを弄り回していたら、「火薬・羅針盤・活版印刷のプリキュア」「車輪・火・文字のプリキュア」「機械の国からやってきた機械の妖精の導きで悪の侵略機械から人の心を救うため戦うメタルプリキュア」とかに混じって「全人類吸収の企みから人の個性を守るため人間と液体生命が対等の立場で合体して戦うスライムプリキュア」というネタが(爆散)
by QuarrelBlue (2012-05-20 16:58) 

tomorine3908-

QuarrelBlueさま
ツイッターではいつもありがとうございます。
ブログのコメントは原則は放置プレイが建前ですので、この欄では常にお返事できるとは限りませんが、その際はまたツイッターのほうなどご活用いただけると幸いです。
で、なかなか示唆に富んだご指摘だと思いました。

私もスマプリには、細部はともかく全体の方向性はコレでまちがってないんだけど、その点をどのような表現で評価するかが今ひとつ定めきれずにモヤモヤしておりました。
確かにバッドエンド/ハッピーエンドについてもっと掘り下げよとは書いたものの、それではとばかりにこれこそがハッピーエンドだよと具体例を以てハッピーを定義されるのは、むしろ私の望むところとは正反対です。
何がハッピーかは、いわば主観的なもので、外面的な形に対して、第三者がソレが幸せかどうかを判断するのは、まさしく価値観の押し付けにほかならないわけです。
前作スイートプリキュアに対する私の危惧も、幸せの定義が「具体的ではない」ことではなく、むしろ抽象的な方向性すら示されずあまりにも漠としていたゆえに、逆に一般的に称揚されるところのありがちな幸せのカタチに回収されてしまいかねない点でした。
その意味で【外面的な結果よりも、不確実な未来に対し心を尽くして全力でつかみとったものこそがハッピーエンド】は、本当にそのとおりであり、番組がこの方向で作られていっているのなら、心配はないと言ってよいのでしょう。
つまるところ、私の「もう少し掘り下げてほしい」というのは、そうした方向性をあとちょっとだけでも作品内で示唆してほしいというところになるのでしょうね。

また、そのように考えると、第16話「れいかの悩み!どうして勉強するの!?」も、【不確実で多彩な可能性がある】未来に対して、何より自分自身で決めたことを【精一杯やりぬくこと、結果は後からついてくる】というテーマに、相当に肉薄していたとも言えるのではないでしょうか?
予め他者が用意したハッピーエンドへの道筋に従うことよりも、自分で判断して様々な可能性を追求することが大切というのが、この回でスポットの当たったれいかが自分の悩みに対して出した答だったと言えますから。
それは敵アッカンベーの最後の出題だった高村光太郎の詩のフレーズの設問とも上手く重ねられていますね。
曰く『僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる』
「なぜ高村光太郎!? 子ども番組にしてはシブすぎる!」という声も巷にはあったかもしれませんが、いやいやソコはちゃんと考えた結果のあのチョイス。
となると、私が練り込み不足を心配したような箇所も、もしかしたら逆にものすごくしっかり練られているがゆえに、さり気なく自然な構成になっていると解することもできるかもしれません。
ともあれ、今回ご指摘いただいたようなことをヒントに、この先の展開がもう少し見極められれば、私も「スマイルプリキュアのここがスバラシイ」というブログ記事が書ける日が来ると思います。

by tomorine3908- (2012-05-22 15:42) 

QuarrelBlue

見た直後は問題集クイズバトルのインパクトに紛れて気づきませんでしたが、確かに後から振り返ってみると初見の印象以上にしっかりとテーマを踏まえた構図になっていますね。
基本フォーマットとしての「メッセージの激突からの反撃」も、よく見ると「道にでも迷ってたか?」と遅参を嘲る敵に「確かに私は迷いました」と率直に答えた上で改めて自分の意思で悪に立ち向かうことを宣言するという流れが「迷うことを単なるロスとして否定的にしか認識できない敵」と「迷うことも自分の意思を再確認するための経験として肯定的に受け止めることのできた主人公」との対比という形でさりげなく織り込まれていました。
(「なんで全部わかる!?」と叫ぶ敵に「わからないこともたくさんある、だから学びたい」と返す流れも、結果だけしか評価できない敵と未知に向かって力を尽くすことの意義を確認できた主人公との対比になっているのかもしれません)

あとは「何もかもやめてみるという選択さえ実は祖父からの提案」というのも、他者の意見に影響されやすいところをを描写することで最後に自分の意思で駆けつけてきたことの意義深さを表現する伏線だったのかも。

最終問題の「僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる」は、確かに「道を求めて道なき道を切り拓く」という「道」を見出した展開との呼応が読み取れますね。
「道」といえば以前の秘密基地回では「道」と書かれた掛け軸を手に富士山頂で一席ぶち仲間に呆れられるというギャグシーンがあったそうで、そこで示された「『道』というものに時として過剰なほどの思い入れを示す」求道者的側面が今回の「自分の道を問い直す」という展開にも繋がっているとの評価も目にしました。
(秘密基地回では「いろいろな場所を回ってみて、結局最後は大元の拠点を改装して使うという方向に落ち着く」というストーリーがあり、無駄足だったのかという疑問に「いろんなところを見てきたからこそ今の場所の良さがわかるんだよ」とまとめていたとか。一見無駄足のように見えても「自分で判断して様々な可能性を追求すること」は無駄ではないというメッセージ性の面で、今回のエピソードとも呼応しているのかもしれません)
一話完結を基本としながら、うまくエピソードをまたいでキャラクターやテーマを連続させる工夫がされているのかも。
by QuarrelBlue (2012-05-27 08:31) 

nero

私はスイートプリキュアが大好きなので、あなたの文章を見てとても悲しくなりました。
たしかに人によって好き嫌いはあるでしょうが、ここまで叩かなくてもいいのでは?
作品を好きな人の気持ちも少しは配慮して下さい。
by nero (2012-09-17 00:07) 

tomorine3908-

neroさま
拙文しっかりお読みいただいた上でご気分を害された点、申し訳なく存じます。
むろん人の感じ方はそれぞれであり、こことは別記事のほうで明記してあるとおり「スイートプリキュアが好きな人」を非難する意図はございません。
また『スイートプリキュア』の作品自体についても、個人的な好みのみに由来する点については否定的な物言いをしないようにしておるつもりです。
そのうえで、「やはりこれは広く世に出す公の作品としては、このような点が欠けているのではないか?」「これはともすれば社会的弱者への抑圧になってしまうのではないか?」というような部分について論理を尽くして考察したものであるように努力いたしております。
もちろん文章表現上、私の主観が完全に排除されていないものもありましょうし、そのようなくだりでは断定・断言を避ける配慮も含めて、客観性・公平性を担保するスタンス自体が、ある種の思想だと言うこともできましょう。
ただ、そうしたことが自由で対等な言論の場でおこなわれる以上は(ですから、その範疇を逸脱した単なる誹謗中傷の類はいけないと思います)、ひとつの表現であります。
つきましては、neroさまにおかれましては、この場合は、例えば「このようにスイートプリキュアの素晴らしさがわからぬたわけ者も世の中にはおるのだな」と腹の中でせせら笑っていただければよろしいかと存じます。
あるいは『スイートプリキュア』の良い点を取りまとめて広く発信されるとかはいかがでしょうか。
多様な意見が存在することは重要ですし、意見の対立を避けてばかりいることは、例えば『スマイルプリキュア』31話になぞらえれば、まさに怠け玉の中の世界につながります。
ぜひ相互の批判と研鑽の方向で、今後とも当サイトをよろしくお願いいたします。


by tomorine3908- (2012-09-17 16:26) 

nero

レスありがとうございます。

いろいろご説明をしていただいて申し訳ありませんが、私にはよくわかりません。気になったのは、作品の問題点(気になる点、良くないと思う点)などというものはどんな作品でもあるはずだし、最終的には好き嫌い(作品を気に入ったか、気に入らないか)だけだと思います。。。いや、これは単なる個人的な意見ですから、私の理解できない様々な複雑な状況があるのでしょう。

ご紹介いただいた雑談形式の感想サイトも見てみました。楽しそうで良いと思います。スイートは歴代プリキュアの中でも最低視聴率で一般的にも評価が低いという事実も認識できました。
でも、私にはそんなの関係ないです。人が何を言おうが、どんな評価をしようが私にとってスイートプリキュアは最高の作品なんですから。佐倉さんの文章を読んで良かった点は、「人は人、自分は自分」を再確認できたことです。それと他人様のブログにずうずうしくコメントなんてしたのは超久しぶりです。その点、どうも失礼致しました。

by nero (2012-09-21 10:44) 

tomorine3908-

みなさま
今般neroさまより頂戴したコメントを踏まえまして、当記事本文内を再精査いたしましたところ、一部「これはちょっと調子に乗って必要以上にセンセーショナルな言い回しをしすぎてるよなぁ…」と判断される表現がありまししため、当該箇所を削除いたしました。
あしからずご了解ください。

by tomorine3908- (2012-09-23 15:49) 

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